100年ふくしま。

vol.080 cafe遊楽 石橋偉光さん

2023/08/09
080 cafe遊楽 石橋偉光さん

100-FUKUSHIMA Vol.080

cafe遊楽 石橋偉光ひでみつさん

自家焙煎珈琲とJAZZと手打蕎麦

三春町中町地区の3つの蔵、その一番奥にcafe遊楽がある。
「コーヒーのドリップは、最後まで出し切らないこと。雑味が出てしまうのでそうしています。お出しするカップは、私がコーヒーをたっぷり飲みたいほうなので、コーヒーカップよりも少し大きいティーカップを使っています」
カウンター越しに、店主の石橋偉光さんがコーヒーを淹れてくれた。
石橋さんは、元三春町職員。定年退職後に、調理師学校に入学し、いくつかの飲食店の手伝いを経て、2011年の1月から自家焙煎珈琲とJAZZと手打蕎麦の店「cafe遊楽」を始めた。
「下手の横好き」と言って、店を始める以前からご自宅で、手網焙煎を試していたこと。
高校生の時、ブラスバンド部に所属しジャズが好きになったこと。
尾瀬で山登りや渓流釣りをしていた時、裁ちそばが美味しいと聞き、興味を持ち、蕎麦打ちを始めたこと。
趣味の延長でやっている店だよと笑う。けれど、それらが居心地の良さをつくっている。
店内にはジャズが流れ、蕎麦を啜る音。平日のお昼時にもかかわらず、満席の店内にはゆったりとした時間が流れていた。

080cafe遊楽:コーヒー
080cafe遊楽:JAZZ

いいなと思ういくつものこと

「町の仕事をしている時から、飲食店をやってみたいなと漠然と思っていましたが、食事に関してはいつも奥さん任せで、自分はご飯も炊けず、包丁も使えなかったんです。なにもわからないから、学校に通ってみようと自分で郡山市の調理師学校に連絡をしました。すぐに面接をしてくれ、入学が決まったのは、定年退職をしてしばらく経った頃のことです」
今から14年前、石橋さんは60歳で調理師学校に入学した。午前は学科、午後は調理実習。1年間の学校生活は働いているときより、容易ではなかったと振り返る。
「自分の子どもよりも若い、高校を卒業したばかりの学生たちがほとんどでしたが、その中の同級生に南会津から通う、同じように定年退職後に入学された方がいて、親しくなりました。調理に関しては1年では足りないと思い、郡山市の蕎麦屋『石の花』で半年、そば以外の料理屋も経験してみようと三春町の鰻屋『和久屋』で数ヶ月店の手伝いをしました。蕎麦打ちは調理師学校に通う前、仕事をしている時に休日を使って、山都町のそば道場や郡山の蕎麦打ちの先生の元に週に一度10年ほど通い、教わっていました。初めて店を出したのは、知人から紹介してもらった三春駅前の店舗でした」
三春駅前の店は、2011年の1月。オープン間もなくの震災があり、3年ほど店を続けたが、人通りの少ない場所で採算が合わず、現在のこの場所に移転することになった。
「震災後、町にあった蔵の多くにひびが入り、傾いたりして取り壊しになりました。かつて雑貨店の倉庫として使われていたこの3つの蔵は、比較的傷みもひどくなかったので、町で管理し改修工事を行って、店舗として貸し出されることになりました」
3つある蔵は、道沿いから一ノ蔵、二ノ蔵、三ノ蔵といい、出店者として応募した石橋さんは、三ノ蔵で営業することになった。

080cafe遊楽:そば_1
080cafe遊楽:そば_2

毎日数量限定で出す手打蕎麦は、ご自宅で作っている。ちゃんと打てるようになるまでには長い時間がかかった。今は肩を痛めたこともあり、店を手伝う娘の由香さんが蕎麦を打っている。細くてコシがあるのが特徴だ。
「家で何度も打って、家族に試食してもらっていました。蕎麦を打つには、場所や時間、体力が必要で、いかに手早くまとめられるかで出来が決まります。カレーうどんもルウとスパイスをたくさん試して、今の味に落ち着きました。昼のキッチンは大忙しです。毎日来られるお客さんは、どの時間にも一定しているわけでないので調理時間も踏まえ、安定して美味しいものをお出しできるよう考えてきました」
若い頃に憧れていたJBLのスピーカーは、当時は買えなかったが、しばらくしてネットで中古を見つけ修理に出し、今は完璧な音が出るようになった。
店の片隅にあるショーケースは、ここを訪れる方にも観てほしいという思いから、石橋さんが用意したものだ。
「若い頃に買い求めた三春人形です。私が30代の頃に見つけて、それからいくつか買い求めました。今眺めてもいいなと思いますね」
映画やミュージシャンのポスター、2階の本棚には司馬遼太郎の文庫本、音楽雑誌、どれも石橋さんがこれまでに、いいなと思ったものたちが店を飾っている。

080cafe遊楽:三春人形とJBLスピーカー

石橋さんは、ご自身のこと、お店のこと、町のこと、それらのかかわりについてもざっくばらんに話してくれる。
「外から来られた方に町も変わってきたでしょうと言われますが、ずっとここにいて、特別変わりはないように思っています」
三春町で育ち、役場職員として働き、珈琲とJAZZと手打蕎麦の店を開いて12年になった。
今年75歳になる石橋さんは、この店を続けるのはもう少しだと話す。
これからやってみたいことを尋ねると、「あゆ釣り」だという。
渓流釣りほど、体力は要らずに楽しめるかなと笑った。

080cafe遊楽:石橋偉光さん
080cafe遊楽:入口

– – –
cafe 遊楽
2023年12月17日、閉店しました。
福島県田村郡三春町字中町4 三ノ蔵
0247-61-6695
11:00 – 18:00(冬期17:00)
あり

2023.06.19 取材
文:yanai 写真:BUN

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