郡山全集

あさか野窯 志賀喜宏さん

2014/10/07

あさか野窯

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075 あさか野窯 志賀喜宏さん

あさか野窯にて

あさか野窯で、陶芸の体験教室に参加する機会があった。
土をひも状に煉り、土台に重ねながら形を作っていく方法で、これならば初心者にも手軽にできるという。
私は陶器を見るのも選ぶのも好きだが、作ることには苦手意識があり、少々尻込みしながら手ほどきを受けた。
なかなかうまくいかずにまごまごしている私を、先生が頃合いをみて指導してくれる。先生の土を扱う手はとても繊細だ。見とれている間に器らしくなっていく。
どうにか出来上がった器はなんとも言いがたく焼き上がりはどんなものになるのか心配だった。
幾日か過ぎて届いた小さなマグカップ。釉ぐすりを施されて愛らしくあたたかみのあるものになっていた。手の中に包み込んだり宙にかざしたり、うれしくて何度も見直した。
自分のおぼつかない指の加減もそのままの、紛れもなく世界でただひとつの私の作った器だ。
お茶を入れると一瞬、命を吹き込まれたようにいきいきと見えた。そうなのだ、ものを入れてこその器なのだとあらためて気づく。

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志賀喜宏さん。気さくで話しやすく、一緒にいるのが楽しい方です。
「アイス最中が好きなんですよ。私の主食です。あ、これは冗談ね」
ちょっとお茶目な志賀さんです。
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16代目から初代へ、郡山の風と匂いを感じながら

陶芸教室で指導しているのは志賀喜宏さん。志賀さんは、大堀相馬焼窯元「岳堂窯」の16代目だ。
志賀さん家族は、震災・原発事故後、帰還困難区域になった双葉郡浪江町大堀を離れて本宮市に避難した。
以前から仕事で郡山には来ていたという志賀さんは、今まで会った人の印象や風土にひかれ、新天地を郡山に決める。
2014年5月には、郡山市で「あさか野窯」を開設し新たなスタートを切った。
「自分は16代目ですが、家業を受け継ぐことに迷いはなく若い頃からこつこつと作り続けてきました。相馬焼き300年の伝統は自分の身体の中にあり、これだけは切り離すことはできない。その思いを郡山という風土に染み込ませ溶け込んでいきたい。これからは郡山の風と匂いを感じ馴染みながら、あさか野窯の初代として自分なりの焼き物を作り上げていきたいです」
窯の名前は、子どもからお年寄りまで親しまれるように、この土地の名前をひらながにして使った。
子どもが書いたような、あたたかみのある文字の看板に志賀さんのこの土地への思いがこもる。

今は、陶芸を通して仲間を増やし、
同じ思いの人と話をできるのがうれしい

以前の事業の中心は販売だったが、志賀さんは陶芸教室へも力を入れることを決意する。
「浪江にいたときも講師の仕事はしていましたが、ここでは以前よりも教室の時間を多くとりました。あさか野窯の焼き物を多くの人に気に入ってもらえればうれしいですね。お子さんや初心者も気軽に楽しめる体験コースも充実していますよ。まずは土を触ってほしいですね」
陶芸教室を始めて数ヶ月が経った今、志賀さんはこの時間を多くとって良かったという。
器を作りながら、地元の方と話ができるのが楽しい。陶芸を通して仲間を増やし、同じ思いの人と話をできるのがうれしいと目を輝かす志賀さんだ。

浪江からやっとの思いで連れてきた3匹のネコのこと。
志賀さんの話

少し前に浪江の自宅で飼っていた3匹のネコを連れてきたんです。
ずっと一緒にいたのに、置き去りにされて人の居ない所にいるとだんだん野生化していくんですね。名前を呼ぶと鳴き声はする。そこにいるのはわかっているのにね、なかなか姿を見せないんですよ。
あれこれ手をつくしてやっとの思いで連れてきました。それがこの間、一匹姿を見せなくなってね、心配してます。
絆という言葉は嫌いです。
あまり連呼されるとわずらわしく感じてしまいます。
私はね、みんな故郷が無くなったと言うけれど故郷はそこにあるではないか、と思うんですよ。行く気になればすぐ近くにあります。
住めなくはなったけれど無くなったわけではない。そうとらえてます。
これからは、自分の中に蓄えてきたものを糧にして、新しいものを生み出したい。
毎日の暮らしの中で、使っていて心が満たされるようなものを作りあげたい。
今は心を自由にして、いろいろ遊びながら模索しているところです。
時々ね、友人と語り合うのですが、おまえは理想ばかり言ってると諭されることもあります。
けれどね、夢を語らないで何を語るのか、と思うんですよ。

ネコが好きだという志賀さんは始終、穏やかな目で語ります。
どこに身をおいて暮らそうと自分の中に根を張るものを信じて生きていく。
決して声高にはならず淡々と語る言葉に志賀さんの憂い、思いの深さを知るようでした。

あさか野窯

  • 〒963-0206 郡山市中野1-12
  • 024-973-6320 024-973-6340
  • ギャラリー 9:00〜18:00
    年中無休(陶芸教室は、月・木曜日が休講)
  • 有り
  • *陶芸教室の受講・体験のお申し込み、お問い合わせは、お電話でどうぞ。

2014.09.09 取材 文:kame 撮影:watanabe

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