郡山全集

正谷 谷田部正一さん

2012/10/03

masaya

郡山全集|笑顔のおすそわけ

068 正谷(まさや) 谷田部正一さん

正谷 へしこのお茶漬け

「旨い和食の店ができたよ。落ちついて飲むのにちょうどいい。震災後に南相馬市から店を移したらしいよ」
数ヶ月前に知人にそう教えられたのが頭のかたすみにあった。8月のうねめ祭りの最終日に店を訪ねた。
店の名前は「正谷」。郡山市の表参道沿いのおのやビル2階に店舗を構える。
カウンター席に座り、店主おまかせのコース料理を頼んだ。
お造り、煮物、焼き物、蒸し物、揚げ物など素材を大事にした旬の味を楽しめるものばかり。料理の締めは、へしこのお茶漬けだ。
へしことは、鯖を塩漬けしてから糠に漬けこむ保存食で、主に北陸地方で作られる郷土料理だ。
深くて丸い器にふわりと握ったごはんを中央に盛り、出汁を張る。うすく切られたへしこと刻んだ味噌漬け、わさびが皿に盛られてくる。
へしこを一切れつまみ、慎重に出汁の中に沈めた。わさびをちょいと入れ、ごはんをくずして口の中へ。旨い。出汁のまろやかな旨味と塩味が効いたへしこの旨味がバランスよくほどけていく。
あつあつのお茶漬けをリズミカルにほぼ夢中で食べてしまった。
うっすらと汗ばみながらいただく真夏のお茶漬けもいいものだ。
店内は、カウンターにテーブル席、個室が用意されており、ゆったりとした空間で店主の心を尽くした日本料理が味わえる。

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谷田部正一さん。
「小さい頃は野球と柔道を、中学・高校ではサッカーをやっていました。高校1年の時に友だち5人とバンドを組んで僕はドラムをやっていたんですよ。そうそう、先日たまたま訪れたライブハウスでドラムをたたかせていただく機会がありました。やっぱり音楽はいいですね、心が開放されます。」
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2012.9月末日現在、正谷では、パートさんを募集しています。
午後6時から10時まで。
女性の方で40歳までの方を希望しています。
どうぞお声をかけて下さい。

料理をすることは僕の生きざま

店主の谷田部正一さんは、南相馬市原町地区で14年間に渡り料理店「正谷」を営んできた。
「原発事故の影響で、お客さまに気持ちよく魚を提供できなくなりました。地元産の食材を使った料理を今までのようにお出しできない。料理人としてこれはつらいことです。これから先ここでやっていていいのか、悩みました」
震災後、予約のみで開いていた原町の正谷は去年の6月には通常の半分まで客足が戻っていた。けれど谷田部さんは考えた末に郡山市で営業することを決断、2011年12月23日に新しく「正谷」をオープンさせた。
「あれから1年と6ヶ月が経った今の時点でも思い悩むことは多いです。東電とのことも何ひとつ進展、解決などしていないように思う。南相馬の親戚や知人たちには身体も大変そうだし、帰ってきたらどうか楽になるよ、と言われることもありますが、僕は楽をしたいわけではないのです。生きざまを選んだのです。奮起するためにも常に何かとぶつかっていたい」
と谷田部さんはいう。
「料理をすることは僕の男としての生きざまです。自分で決めたことだから苦しくても続ける。続けなくては本物になれない。ここでやめたら今まで苦労して築きあげてきたことが無駄になってしまう」
郡山に店を出して8ヶ月が過ぎた。まだまだ厳しい現状だが、リピーターの客も少しずつ増えているという。
「新参者ですが、かわいがってもらっています。いろんな方にアドバイスもいただきありがたいことです。昨夜もお客さまに言われたんですよ。出されたもの全部旨かったって。嬉しいですよ。料理人としての本懐です。それ以上のものはないです」

出汁の旨味で酒を飲む

若い頃、宮城県の仙台市で修業した谷田部さんは、出汁の旨味を大事にしている。そんな谷田部さんが、今そっと胸に抱えている思いがある。
「数ヶ月前、原町に帰った時に知り合いの方とお酒を飲む機会がありました。その時に席を同じくした地元のお客さんに言われたんです。正谷は、出汁の旨味で酒を飲める唯一の店だよなあ、スープで酒を飲めるところはそうは無い、と。ああ解ってくれている人がいたんだと思いましたね。これでいいんだ、がんばろうと勇気づけられました」
谷田部さんは、仕事のプロセスの中で自分の作りたいものがイメージできないと料理はつくれないという。
「例えばひとつの料理にとりかかる場合、それに合った食材を選ぶにしても味や香りを頭で想像していくことも大切なことです」
料理人、谷田部正一さんの思いのこもるひとことだ。

93キロの道、夜を走る

「実は、僕の家庭は親ひとり子ひとりなのです。自分としては息子と一緒に郡山で暮らしたかったのですが、ボクはこっちに居るよ。お父さんがんばってボクは大丈夫だよ、と言われました」
息子の亮太くんは中学3年生。部活はバドミントンをしています。
思春期だし受験も控えて、父親としては心配で思い残すことはたくさんあるといいます。
「僕の子どもの頃と全く同じ、友だちと離れられない。友だちが好きなんでしょうね。亮太の気持ちは良くわかります。親の僕が言うのもなんですが、いい子なんですよ。ガマン強くてね。自分の息子とは思えないくらいです。僕の姉夫婦からは亮太のことは私たちが面倒をみる、おまえは仕事を思い切りやれと言われました。ありがたいことです」
仕事をしている時も、何をしている時でも頭の中にはいつも亮太くんのことがあるといいます。
「朝はちゃんと起きられたか、ごはんは食べたか、いつも無意識に思っていますね。切ないですよ、毎日。原町の正谷は、店舗と自宅が一緒なんです。そのままにしてあるので亮太も時々、ひとりで原町正谷に行ってることもあるようです。多感な年頃ですからね、それでいいと思います」
そう話す谷田部さんはいつのまにか優しいお父さんの顔になっていました。
毎週土曜日にはお店を閉めてから原町へ車を走らせるという谷田部さん。郡山市からおよそ2時間の距離です。
夜の道、93キロの道の向こうでは、住み慣れた家が、亮太くんが待っています。

正谷(まさや)

  • 郡山市中町7-14 おのやビル2F
  • 024-933-6040
  • 17:00〜22:30
  • 日曜日
  • *昼、会食・会合を承ります。

2012.09.05 取材 文:kame 撮影:watanabe

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