100年ふくしま。

vol.056 料理 こふく 高坂光一さん

2020/08/12
vol.056 料理 こふく 高坂光一さん

100-FUKUSHIMA Vol.056

料理 こふく 高坂光一

「こふく」のお弁当

なんて旨そうなことか、「こふく」のお弁当。
フタを開けると、鯛飯の上にマイタケの天ぷら、・ツブ貝・タケノコ・レンコン・ミョウガ・トウモロコシ・大豆・ふき・大根・青菜、そして卵焼きが器に重なり合っている。
夜の営業を自粛していた5月、テイクアウトをしていることを知り、4個のお弁当を予約した。
昼近くに伺うと、お弁当はカウンターに用意されていた。
「少しお待ち下さい」
店主が鍋から味噌汁を分け始めた。
ああ、お味噌汁も付くのね。はやる気持ちをおさえ、家族が待つ我が家へ急いだ。
「いただきます」
「旨い!このご飯はなんだろね」
「鯛飯?」
「旬のものと走りのものと。これは美味しそう!」
「素材を生かした味付けがうれしいね」
目をこらしながら口々に思いを言葉にし、気がつくとすっかり食べ終えていた
コロナ禍で出合った「こふく」のお弁当。しあわせなお昼ごはんでした。

vol.056 料理 こふく 高坂光一さん
vol.056 料理 こふく 高坂光一さん

料理人になろう

「実は私、東京のデザイン専門学校へ進学したのですが、アルバイト先の居酒屋で料理の面白さを知り、気がつくとどっぷりとはまっていました」
「こふく」の店主、高坂光一さんは福島県石川町の出身。美術が好きだった高坂さんは、大学受験の時期に塾の先生から、桑沢デザイン研究所というデザインの専門学校があることを教えてもらった。
「がんばって入学できましたが、あの頃の自分はとにかく東京に出たいという気持ちが強く、先にありました。学校を出てデザイナーになりたいという意識も漠然としたものだったのかもしれません」
桑沢デザイン研究所には、目的意識の高い人が全国から来る。そんな中で何となく過ごしている自分との圧倒的な差を感じ、日々どうしようという思いを抱えて授業を受けていたという。
「それでもどうにか卒業はできましたが、その頃は料理人になろうと決めていました」
何故、料理の世界に惹かれたか。
それを説明するのはむずかしいが、高坂さんには料理はデザインと共通しているという感覚があった。料理というもののクリエティブな魅力が高坂さんを料理の世界に導いていった。
和食の有名店で修業していた頃、お客様から言われたことが印象に残っている。「あなたの料理は、初めから料理人を目指した人がつくるものとは違うね」
その言葉で自分の作る料理にデザインの感性が生かされていることを気づかせてもらったと話す。

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日本酒という文化を大切に。

高坂さんは、日本酒を大切にしている。
今でこそ日本酒が注目されているが、日本酒に重きをおくことがほとんど無かった時代に、ある修業先の店長に出会った。
「店長は日本の文化を大事にし、お店には自分で選んだ各地の日本酒を用意してこの料理にはこのお酒を、という自身の確固たるものを持っている人でした」
その思いに高坂さんは心打たれた。
日本酒を大切にしたいという思いは、福島に帰りお店をやろうと決意をした時の心の糧となり、同時に食材を大切にしようということにも繋がっていった。
「畑や海に出向き、食材を提供する人との出会いは大きく、今まで分からなかかった生産者の思いを知ることができました。農薬のことや大量生産の結果、廃棄物が増えることなど、少しずつ勉強して疑問が生まれました。だから今は、料理をしながらその問題点、解決策を一緒に考えています。自分に出来ることは少ないですが、ひとつひとつを大切に考えながらやっていきたい。生産者の方にはパワーを感じます。時間と手間をかけた思いを糧にしてそれを力にしているのだと思います。今は、これまで付き合いがあった人たちや地元の農家さんたちにお世話になりながらやっています」

vol.056 料理 こふく 高坂光一さん
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心と身体に沁みていく料理を

食は身体をつくる。
料理をするようになってから、食の大切さを感覚としてわかってきた。
「ジャンクフードもいいけれど、いつか身体が悲鳴をあげます。習慣化しその味に慣れてしまうとそこから抜けるのは大変なことなのです。私は、心と身体に沁みていく料理をつくっていきたい。食べることで心が喜び身体が喜ぶ。そんな料理です」
「こふく」は、カウンター割烹の様式をとり、お客さまとやりとりしながら料理を作ってお出ししている。
「厨房にこもっているとただの作業になってしまうところがあります。料理との向き合い方が違う 。お客さまの反応に喜びを感じます」
食べて美味しかったというところに行きついてほしい。満足して腹つづみをたたいて帰っていただきたい。
小福、小腹、幸福。いろんなイメージをしてもらいたい。「こふく」には高坂さんのそんな思いが込められている。

vol.056 料理 こふく 高坂光一さん
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これからのこと

高坂さんは、卒業後の不安だらけの日々に沖縄から北海道まで鈍行列車で2ヶ月ほど食の旅をしたことがあります。
「沖縄から始まり、広島や東北、北海道と食べ飲みの旅でした。ゲストハウスに宿泊しながらいろんな人と出会い、こんな世界もあったのだと思いました。それまでの私はお店を東京でやることしか頭になかった。この旅を通して東京にこだわる必要がないと思えるようになりました」
その後、2011.3.11の震災が発生しました。高坂さんは、新橋の料理店で被災。大鍋がひっくり返ったといいます。
この震災がきっかけとなり、福島に帰り店を開こうと決意しました。
「こふく」開店から7年になります。
「現在は、コロナ禍で試行錯誤しています。人と会うこと自体がネガティブな状況の中で物販部門なども検討中です。いろいろと違うことも出来る時間だととらえています。夜の営業も徐々に始めましたが、今は手探り状態ですね。メニューもリクエストがあれば承ります」
自粛が続く2月末頃から、お弁当や夜のテイクアウトを始めました。
「お弁当は味の着地点が違うので、むずかしいけれど考えるのが楽しい。お持ち帰りで美味しい料理を食べていただきたいです」
お弁当や夜のテイクアウトはこれからも続けていきます。
卵焼きを作るのが高坂さんの朝の日課となりました。卵を焼くのは楽しいですと話してくださいました。

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料理 こふく
郡山市駅前1-1-12 陣屋エクセレント101
024-931-4622
17:30〜L.O.21:30
不定休

コース(要予約) 5,500円 7,500円 9,500円
その他、当日アラカルト
日本酒50種以上取り揃えております
お弁当 1,000円(要予約)
夜のテイクアウト承ります(要予約)

2020.06.23取材
文:kame 撮影:BUN

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