100年ふくしま。

vol.059 料理研究家 伊藤惠里佳さん

vol.059 料理研究家 伊藤惠里佳さん

100-FUKUSHIMA Vol.059

料理研究家 伊藤惠里佳さん

温かな料理、おばあちゃんの鍋

2年ほど前に、本を通して思いを語り合う会に参加した。
夕食をいただきながらのその会は始終リラックスして初対面同士とは思えないほどにうち解け合った。
開催される建物の玄関を開けると、しっとりとした温かい空気が立ちこめていた。ご飯の炊ける匂い、鍋から出る湯気、野菜を切る包丁とまな板の音。
ああ、夕げの支度、お母さんの匂いだ。初めて訪れる場所に思わず「ただいま」の声が出た。
料理を作っていたのは、伊藤惠里佳さん。にっこりと温かな笑顔で迎えてくれた。
メンバーが揃い、テーブルを前にそれぞれに持参した本について語る。
その合い間に出来上がった料理が並び、伊藤さんのひと皿を置くたびに歓声があがるのだった。
調理台に存在感のある鍋があった。
「これは古い無水鍋で、母方のおばあちゃんから譲り受けたものです。料理には必ずこの鍋を使います。こうしてどこにでも連れていくんですよ」
伊藤さんはどんなに新しい立派な鍋でも、このおばあちゃんの鍋にはかなわないと話してくれた。

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手作りって美味しいと感じてもらえる料理を

「私は、病院や老人ホームなどの施設で18年間、調理栄養士として働いていました。3年前にその仕事を辞め、その後フリーで料理に携わることを始めました。近所の方に声をかけられていたこともあり、今は地元の斎場で仕出し料理などを作る仕事をしています」
その傍ら、イベントなどに出張して料理を出したり、お弁当の依頼なども受けている。
伊藤さんは栄養士の仕事を辞めてしばらく経った頃、友人にある勉強会に誘われた。案内書にはリノベーションした建築会社が会場で「キッチンあり」と記載されていた。
「勉強会にも参加したいけれど、私がみんなのランチを担当してもいいですかと主催者に提案すると賛成していただけたのです。そんなひらめきがきっかけで、ワンブレートの料理を作るようになりました」
人数は6、7人の会で自身を活性化させてくれる出会いだったと話す。
その時のメニューは、ご飯、切り干し大根の煮物、ラディッシュの甘酢漬け、ブリの味噌漬け焼き。漬け物は伊藤さんオリジナルのキュウリの糠漬け。切り干し大根の煮物は、おばあちゃんの鍋でこしらえた。
特別なものではなく普通の家庭料理だけれど、手作りって美味しいと感じてもらえる料理を作りたい。
伊藤さんのその思いは心尽くしの料理となり、食卓につく人たちの心と身体に染みわたっていく。

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やさしかったおじいちゃん、おばあちゃん

伊藤さんは、二本松市出身。小さい頃から料理を作るのが好きだった。
「親戚のお姉さんや身近な人たちが栄養士や調理師の職業に就いていました。子どもの頃から自分もそうなりたいと自然に思うようになり進路もその道を選びました」
伊藤さんは4人姉妹の3番目。自営で忙しく働く両親に代わり、おじいちゃんとおばあちゃんに面倒をみてもらったと話す。
「祖父母は農業をしていました。おばあちゃんは畑から採りたての野菜や、その時の冷蔵庫にある食材でパパッと美味しいご飯を作ってくれました。夜、寝る時間になると姉妹でおじいちゃんを取り合いになることもありましたね」
母方のおじいちゃん、おばあちゃんの家にいくと、鍋でスポンジケーキを作ってくれた。伊藤さんは、遊びに行った時におじいちゃんがボールで泡立てをしている姿を今でも覚えていると話す。

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体質改善のために始めたファステイング。
身体は口にするもので変わっていく。

「小さい頃は、喘息持ちで風邪をひきやすい子どもでした。10歳頃からアトピー性皮膚炎になり、ステロイド軟膏が手放せなかった。アレルギー体質で鼻炎もひどく、そんな厄介な体質を抱えて成長してきました」
伊藤さんは結婚後、二人目を出産した36歳の頃にファスティングと出合い、劇的な変化を体験した。
ファスティングとは、断食のことだ。
目的は、内蔵を休ませること。消化にエネルギーを使わずにいると体内の老廃物や毒素を排出しやすくなるという。
「体質改善のために先輩に薦められて3日間のミネラルファスティングを試しました。栄養士をしていたこともあり、最初は『食べない』ことに抵抗がありました」
酵素ドリンクを用いたミネラルファスティングは辛くなかった。身体が軽く痒みもない。頭が冴えて心地よい。何だろうこの感覚。酵素って何?この商品はどうやって作られているのか。他の商品はどうなのか。
それらの疑問を人に訊ねたり専門書を読み、たくさんのことを学んだと話す。
仕事をかかえ育児をしながらの忙しい毎日。アトピーの症状がひどく出たり、しばらくすると治まっていたりを繰り返す中で、学ぶことにより自分の身体の変化を冷静に見つめることが出来るようになっていく。
「解ったことは、日々の食事で良くも悪くも身体は反応しているということ。忙しい今の時代、手軽に食べられるものはたくさん売っています。でもその代償に、健康から遠ざかっている。そこに気づくことができました。」
伊藤さんの料理は手作りが基本だ。調味料はアミノ酸を含まないシンプルなものを選び、発酵食品を毎日少しずつ取り入れていけるような献立を心がけている。
身体は口にするもので変わっていく。
料理を通して食の大切さを伝えていきたいと話す。

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人の言葉の大切さ
ケアハウスにいた頃に思ったこと

栄養士をしていた時には仕事柄いかに栄養をとるかということを重点に考えていた。
食欲が無いという老人に美味しく食べてもらえるにはどうしたら良いかということに心を砕いてきた。
「365日3食を提供する施設にいた時は、高齢者さんが美味しいと思うのはどんな料理なのだろうと思い悩むこともありました」
季節の野菜がたくさん出回る春の日に、青菜やジャガイモ、ニンジンを目の前にしてふと思った。
そういえば、この時期にうちのおばあちゃんは何を作っていただろう。
畑から採ってきたばかりの青菜の茎立ち菜はお浸しに。
茄子は甘辛い味噌炒めにしてくれた。
きゅうりの三五八漬け、美味しかったな。いくらでも食べられた。
炊きたての新米はみんなでお代わりをしたっけ。
ある日、そんな思いを胸において作った料理をひとりの介護士がお年寄りに言葉をかけながら給仕をしていた。
「今日はこんな美味しいのが出来たよ。いい匂いだね。と声をかけたんですね。そしたら嬉しそうに食べてくれたのです。ちょうど旬の茄子の料理が続いた時だったのですが、その介護士さんは、あらまた今日も茄子だよ、とは言わなかった。人の言葉の大切さを思い知ったできごとでした」

今日食べたもので自分の身体は出来ています。
伊藤さんは、仕事でも家庭でもメニューのアイデアや献立は「自分が食べたいものを」が基本だと笑います。
食材は季節のもの、そして出来る限り地元のものを使うこと。ささやかだけれど大切にしている決め事です。

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2020.10.09取材
文:kame 撮影:BUN


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