100年ふくしま。

vol.053 調律師 田中直輝さん

2020/04/10

vol.053 フロイデピアノプラザ 調律師 田中直輝さん

100-FUKUSHIMA Vol.053

調律師 田中直輝さん

ピアノアトリエ郡山楽器
ピアノに向き合う技術者たち

広々とした店内にたくさんのピアノが置かれている。
グランドピアノ、アップライトピアノ。一台一台が違う顔をもつ様々なピアノたち。この日は、この店に勤務する4人の調律師がそれぞれのピアノに向き合い調整に取り組んでいた。
時折、大きく響くピアノの一音。さまざまな道具を傍らに分解されたピアノの前で黙々と手を動かす人たちがいた。

vol.053 フロイデピアノプラザ 調律師 田中直輝さん

ピアノ調律師の仕事

ピアノの修復や調整をメインにしている傍ら、ピアノの販売も行っているピアノアトリエ郡山楽器。
代表の田中直輝さんは調律業務のほかに、ピアノの修復も行う。
「ピアノは適切な修理や調整をすれば何世代にも渡って使用できる楽器です。
ここでは、基本修復はもちろん高度な修復にも全て対応しています。」
調律とは、音程を整えること。鍵盤をひとつずつ叩きながら耳をすまし、ピアノの音に向き合う仕事だ。
音を整えるために音の裏側を聴く。ただきれいにしていくのではなく、音の幅を広げていくと話す。
田中さんは、調律師になり21年。小さい頃から父親に音楽を聴かされて育つ。そのせいか音感が良かった。
音感とは音の高低や音色などを聞き分ける能力、音に対する感覚のこと。
子どもの頃は、特別に音感がいいという自覚は無かった。みんなそうなのだろうとあたりまえのことのように思っていた。中学・高校の頃から周りの友だちよりも耳がいいことを自覚していく。
「高校で進学を決める時期に、耳がいいのであればこういう職業もあると父親に調律師を勧められたことがこの仕事についたきっかけです」

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初めてピアノの内部に触れたときには胸が高鳴りました

田中さんは、青森県の出身。高校を卒業後、静岡県浜松市にあるカワイピアノテクニカルセンター(現カワイ音楽学園)で一年間、調律を学ぶ。
勉強は楽しく、初めてピアノの内部に触れたときには胸が高鳴った。実技の時間はいつもわくわくしたという。
その後、田中さんはカワイの専門調律師としての仕事に就く。
「初めの頃は苦労をしました。どうしてもうまくいかないということもあった。そんな時期に自分にとって師匠と呼ぶ人に出会いました。師匠から駄目出しを受けながら2、3日徹夜をしてやっと納品をしたこともあります」
やればやるほど技術力の無さを思い知った。師匠から手ほどきを受けながら少しずつ力が付き伸びていったと話す。

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ピアノ自体の持ち味を最大限に引き出したい

音に正解はない。それがこの仕事の魅力だ。
ピアノを弾く人の様々な要望に応えられるよう音に変化をつけることを頭に置き調律に臨む。
悲しい時は悲しい音。うれしい時はうれしい音。光や水の流れを表現でき、影を出すことも大切なこと。これらは師匠から教わったことだ。
何色もの色を筆で合わせて描いていく絵のように、ピアニストがいろんな音を出せるように表現の幅を広げられるようにしていく。
「ピアノ自体の持ち味を最大限に引き出したい。オリジナルのパーツで限りなく100に近づける。料理に似ていますね。素材の味を生かしながら料理を作るように、ピアノのもともとのパーツの状態をよく聴きとり、それを生かしながら音を作っていく。一振りの塩加減で味を決めていくように音を整えていきます」
ピアノは年数とともに劣化していく。長く使っている古いピアノは、バランスをとりながら修復していく。
古いピアノはオーバーホールをすることで本来の音色を取り戻すことができる。オーバーホールとは、ピアノを分解し、弦、ハンマー、フェルトなど様々な部品を新しいものに交換して再び組み立てること。調律師にとって胸躍り、身が引き締まる大変な作業だ。
「ピアノの大がかりな修理ともいえます。私は修理が出来なければ調律師とはいえないと思っています。何日も苦労してオーバーホールをしたピアノをお客さまがとても気に入って購入したいと言ってくれたことがあります。その時の喜びはたとえようもなく、感謝しかありません」

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やっと壁にぶつかるレベルに。
そこまで行かなければ見えないものがある。

川の水面に風が吹き渡り、光りを受けてきらきらと光る。
ふと見上げた木々に陽が射し、風に吹かれ木漏れ日が輝く。
寒い日の窓の外にダイヤモンドダストが舞う。
そんな情景が思い浮かぶようなきらきらと輝く音が好きだ。クラシックでは近代フランスの曲が好きでよく聴いているという。
「仕事が趣味です。研究に近い感覚でのめり込むこともあります。弾き込まれたピアノは音が作りやすい。初めの音を聴いて、素材をまるめたり削ったり、いい音が出るようにしていく。やればやるほどわからないことが多くなります。まだまだ上がある。今、やっと壁にぶつかるレベルかな。そこまで行かなければ見えないものがある。どこまで行っても完成はないのかもしれません」
精神状態で聴こえ方が違ってくる繊細な仕事でもある。体調がそのまま反映するので心身のバランスとコントロールに気をつかう。それだけにいい音が出た時が最高にうれしいと話す。

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ずっとこの仕事を続けたい

店内に流れるような美しい曲が響いてきた。
ピアノの練習ではない。音を確認するための大切な一連の作業だ。
調律師自身がピアノの音に向き合い全身で耳を傾ける姿に心を打たれ、思わず聴き入った。
「調律師は黒子の存在です。表には出ませんが人知れず感謝されることが本当にありがたいです。ずっと続けたい。耳が聞こえなくなるまでこの仕事を続けていきたいです」

ピアノは独学で練習をしているという田中さんは、努力家でがんばり屋です。ここ最近は3歳の娘さんのために、ピアノをどうしようかと考えているそうです。

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田中直輝
一級ピアノ調律技能士
日本ピアノ調律師協会会員

ピアノアトリエ郡山楽器
須賀川市柱田字道智59
0248-61-9884 携帯 090-1752-6347
9:00〜18:00
※完全予約制。来店をご希望される方はご連絡をお願いいたします。
pianoatelier[a]kooriyamamusic.com
http://www.kooriyamamusic.com/

2020.03.10取材
文:kame 撮影:BUN

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