100年ふくしま。

vol.021 玄侑宗久さん【後編】

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100-FUKUSHIMA Vol.021

玄侑宗久さん

これまで小説というかたちで「福島」を表現してきた、三春町の福聚寺住職で芥川賞作家の玄侑宗久さん。
vol.020ふくしまの今に続き、vol.021は100年後に残したいことをお聞きしました。

お墓に草を生やしましょう

「100年後も、変わらずにあるというのは幻想です。100年生き残るということは、変化し続けること。私は100年でも200年でも生きている植物は、たいしたもんだと思います」
お渡ししたリーフレットの「100年ふくしま。」の文字をなぞりながら、玄侑さんがいう。
「以前は他の桜より、ソメイヨシノの寿命が短いんじゃないかと言われていましたが、本当はそうではないのです。ソメイヨシノが品種としてできたのは江戸末期。日本で一番古いソメイヨシノの並木が、郡山の開成山にあります。いまだに元気ですよね。あれが植えられたのは明治20年より前。とんでもなく長生きで、まだまだ生きられます。どうしてかというと、オープンな土手に植えられていて、最高に根っこの条件がいいんです。ソメイヨシノが次々枯れていったのは、これまでの土木工事が大きな原因でした。うちの寺は今、土の通気通水を促すために、お墓に草を生やしましょうと言っているんです」
そういえば、本堂に向かう前、裏山を散策していたところ、あちらこちらに小さな立て札があるのを目にしていた。札には、手書きで「境内の土を柔らかくするため草を生やしています。お見苦しいかもしれませんが、抜かないでくださいネ 山主敬白」とあった。
「震災後に始めたことで、サステイナブル(sustainable)というやつです」
持続可能であるためには、昭和40年代の土木のやり方ではいけないと、福聚寺では側溝の底、U字溝も割ったところ、土が腐ったところを桜の根っこが通っていたという。
震災前に行う予定だった庫裏の改修は、三年待ってやっと始まった。
「改修工事では地面の下に炭を130俵ほど入れています。コンクリートの基礎は法律上必ず打たなければならないので、そこからパイプを炭の下まで通して通気させています。実はこの本堂も地下1m〜2mは炭なんです。それで耐震、除湿、脱臭、除菌に役立ちました。環境の中の風通しを取り戻していくことで、100年200年持つものをつくろうと思っています」

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撮影:白岩大和

10月初めの福聚寺の庭は、少しずつ色づき始め、もうすぐ紅葉の季節を迎える。
桜の枯れ枝の様子で、根のどの部分が苦しがっているかがわかるんですよ、と玄侑さんが教えてくれた。
「桜の下枝の根は地表近く、上の枝は地中深くに根があります。これまで草取りをして生えなくなってきたのを喜んでいたら、桜にはとんでもないことでした」
ぜひ見ていって欲しいと、私たちは裏山にある墓地へ向かった。遠目からでもわかるほど、敷地内の全域に青々とした草があった。
「今は表土を柔らかくしないといけないので、苔も植え、種を蒔いて草を生やしているところです。手入れは風が吹いたらこれくらいで折れるだろうというくらいの高さで刈り、刈り取った草もその場に放置すること。人間に刈られたと思うと、草も根も逞しいものになっていきます。草が自然現象で折れたと思うくらいにすると、あまり伸びなくなっていき、草自体も柔らかくなるんです。この草、実はスギナなんです。優しく手入れをすれば草の性格も優しくなるんですね」
触ってみると、驚くほどふかふかとしている。苔が生えているところは、正座もできそうそうなくらいに柔らかい。
「通路をコンクリートで固めて、車で走りやすくしたことは、社会の在り方も同じじゃないでしょうか。近所と通気通水の通路があるという状態が急速になくなりましたが、人はインターネットでは繋がっている。人間の脳は一番の情報システムです。ご近所は脳細胞同士で直接、遠いところとも長いニューロンで繋がっていますが、その長いニューロンが多すぎると、肝心な脳細胞を入れられるスペースが減っていくんです。グローバリズムの弱さを感じて、その反動が起こってきているのでしょう」

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福聚寺では、草原と書いて「くさはら」と読む。
100年も200年も続いていくために、種をまき始めたところだ。
裏山を散策している時、墓の手入れをしに来ていたご近所の方とすれ違った。
こんにちはと声をかけ、作業着姿で道具を入れた竹かごを背負い、長靴で登っていく。
私たちが山を下りてきた時には、枯れ葉を掃き、墓石を拭う姿があった。
それがとてもいい姿だった。

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福聚寺
〒963-7767福島県田村郡三春町御免町194

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2017.10.10取材
文:yanai 撮影:BUN 白岩大和


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