100年ふくしま。

vol.012 蓮笑庵 渡辺仁子さん

Vol.012 蓮笑庵 渡辺仁子さん

100-FUKUSHIMA Vol.12

蓮笑庵 渡辺仁子さん

渡辺俊明の絵。カレンダーとの出会い

渡辺俊明の絵をカレンダーで知った。
暮らしの器を扱う店を訪ねた時だった。
数年前の晩秋、あとひと月ほどで新しい年を迎える頃だった。
壁にかけてあるカレンダーに惹きつけられた。
その年、最後の一枚の絵からは深い祈りのようなものを感じた。
絵の前で立ち尽くす私に店主が声をかけてくれた。
この絵は、民画家である渡辺俊明先生によるものだということ。
俊明先生は器の絵付けもし、自由奔放な線で普段使いの何気ない器を魅力的なものにされていたこと。
生前、船引町の山合いに蓮笑庵というアトリエと居住地を作り、そこで多くの作品を生み出したことを教えてくれた。

蓮笑庵01

さあ学校へ行ってきます。僕には先生がたくさんいる。

蓮笑庵は、渡辺俊明のアトリエ兼工房として建てられた。大地に絵を描くように俊明さんが自ら設計したと聞く。
山に添うように自然を生かしながら石段や小径、庭を造った。
人も自然もなかよく暮らせるように。
この場所にはそんな思いが込められている。
山々を縫うように4つの建物が点在する。
工房「蓮笑庵」、 アトリエ「雑花山房」 、応接空間「万菜」そして「絵本館」。それぞれが性格を持ち、俊明さんが暮らしの友としたモノたちを、そこここにしつらえて今も変わることなく日々の生活が営まれている。
「生前の俊明さんは朝、アトリエに向かう時に、さあ学校へ行ってきます、と出かけました。どこの誰かはわからないけれど僕にはたくさんの先生がいる、とよく言っておりました。自然をやさしい気持ちで観察していたのですね」
俊明さんを支えてきた奥さま、渡辺仁子さんは柔らかな笑顔でそう話す。
アトリエに行く途中で草花に声をかけ、目立たない場所でひっそりと咲いている花を仕事場へ連れていった。鳥の餌や水を変え、身の回りを拭き整えきれいにしてから仕事に入った。
野の花、風の匂い、光を受けて輝く木々。すべてが学びの対称だと捉えていた俊明さん。美しいものは日々の営みから生み出される。杉木立の中のアトリエを 「ぼくの学校」と呼び、季節を楽しみながら絵を描き詩を紡ぎ、日々を丁寧に暮らした。

渡辺仁子さん、道菜さん

自分のやりたいことに子どもを巻き込む

仁子さんは、田村市船引町の出身。東京の女子大学を卒業し数年後に帰郷する。小学校教員を経て工芸店に勤務、その時に俊明さんと出会った。
俊明さんと仁子さん、おふたりには4人の娘さんがいる。
現在は、長女の万里さんと次女の道菜さんが仁子さんを支え、蓮笑庵の運営に携わっている。
「父は、おとうさんというよりも精神性の高い師、先生のような神さまのような存在でした。けれど決して恐いということではありません。例えば、お風呂掃除もお茶碗を洗うのも自分がいかにできるかを見せて、自分のやりたいことに子どもを巻き込むのが上手でした。いつのまにか私たちも身の回りのことは自然と出来るようになり身についていきました」と道菜さん。
モノにあたったり、音を立てて戸を閉めたりすると叱られた。お魚の食べ方にも厳しかったと話す。
俊明さんは自ら料理をされ、忙しい時こそお茶の時間や食卓のひとときを大事にした。食材は決して豪華なものではなく、野菜や山菜、魚などの旬のものを取り入れて食卓に出した。
渡辺家では「料理は盛りつけも美しく、片づけも美しく」が信条。漬け物なども景色になるように盛り合わせる。魚の骨のアラを入れるものは一番いい器を使う。普段の質素で何気ない料理に庭の枝葉を添えるなど工夫をして楽しむことを大切にしている。

蓮笑庵02

NPO法人「蓮笑庵 くらしの学校」誕生

かつて蓮笑庵は、芸術を愛する人たちが集うサロンだった。
それが3.11の震災、原発事故後にボランティアや避難者を受け入れる中で変化していく。
「震災後しばらくは何も考えられず、もうここを終わりにしようかと思うこともありました。ひと月が過ぎた頃に海外からのボランティアの方たちの宿泊場所を探していることを知りました」
仁子さんは当時のことをそう話す。
自分たちが出来ることをしよう。
一大決心の始まりは蓮笑庵の一部をボランティアの宿泊場所にすることだった。混沌とした中、支援物質の受け入れ体制を整えるなど自分たちでなんとか光を見い出そうとする日々。そんな中でそれぞれに活動するさまざまな人との繋がりが生まれ、2013年6月に新たな組織NPO法人「蓮笑庵 くらしの学校」が誕生する。

蓮笑庵03

必要とする誰かのとまり木に。
疲れた人の元気をとりもどす場所になれたらそれでいい。

「蓮笑庵 くらしの学校」は、蓮笑庵を拠点にそれぞれの夢を応援する独自の講座を開き、共に学び実践するサロン塾です。
ワークショップ、ライブ、お茶会、スケッチ旅行などのほか、さまざまな研修の希望も受けています。
「豊かな自然の中で、俊明さんの本を読んだりお茶をしたり小径を散策したり。木々を眺めながらぼーっとするのもいいですね。思い思いの過ごし方で日々の暮らしに役にたててほしい」
必要とする誰かの止まり木になれたらいい。止まり木は多いほどいい。将来は疲れた人の元気を取り戻す場所になれたらそれでいいと仁子さんは微笑みます。

ここでの仕事は使命感だけではできない。
絶対に守らなければならないということではない。
娘たちには、かたくなにならずに自由に思いを巡らして欲しい。
楽しんでできればそれでいい。
娘さんたちへの仁子さんの思いです。

蓮笑庵04
渡辺俊明のこと
昭和12年、静岡県に生まれる。
小学校4年生の頃、画家になる夢をふくらませ独学で絵を描き続ける。
山頭火の句を題材にした木版画が話題を呼ぶ。その後、暮らしの中から生まれた民画を描くようになる。
平成17年10月3日永眠。享年68歳。

またうまれかわれる
ことができたら
なにもできなくてよい
ばかでよい
詩のわかる魂と
絵のかける手をください  俊めい

蓮笑庵05

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有限会社 蓮笑庵
〒963-4316 福島県田村市船引町芦沢字霜田61
0247-82-2977/FAX.0247-82-2977
要予約(ご希望日の前日までにご予約ください)
不定休 12月1日から3月31日まで冬期休館

2017.05.26取材
文:kame 撮影:watanabe


2 thoughts on “vol.012 蓮笑庵 渡辺仁子さん

  • 4月に友人に連れられて、訪問しました。すはらしい時間をすごさせてもらいました。

    • 春も夏も秋も心打たれる場所ですね。。。
      小部屋で一眠りしたくなります。

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