100年ふくしま。

vol.011 諸橋近代美術館 学芸員 大野方子さん

Vol.011 諸橋近代美術館 大野方子さん

100-FUKUSHIMA Vol.011

諸橋近代美術館 学芸員 大野方子さん

チーズが溶けていく時間

世界屈指のダリコレクションを誇る諸橋近代美術館には、ダリに特別な思いを寄せる学芸員がいる。
「尖った外見にアクの強い作品。でも、ダリの人物像を知る度に作品の感じ方が変わっていくのが興味深かったのです」
学生時代からダリを研究し、現在、学芸主任を務める大野方子(おおのまさこ)さんは、熊本県出身の28歳。
子どもの頃、美術館で見たドラえもん展で、美術館にドラえもんがいてもいいのだと驚き、そこで学芸員の仕事を知った。綺麗なだけでは収まらないダリの作品に驚いたのは、中学生の時。いつまでも頭に残り、テレビで見たダリとディズニーの共作アニメーションの存在が、美術学を学ぶきっかけにもなった。
大野さんがダリの人物像の手がかりに挙げてくれたのは、最愛の妻ガラの存在。
「ダリ自身がセルフプロデュースに長けていたのではなく、パリへ活動を広げさせるなど実は、妻のガラにプロデュース力がありました。卓越した技術を持ちながらも、ガラを頼り影響を受けるほどダリにはとても弱い一面があったのです」

わずかなヒントを得たことで、ものの見解が大きく変容してしまうことがある。

ダリの作品に度々登場する「柔らかい時計」。
食事時、妻が用意したカマンベールチーズが溶けていくさまに、妻が身の回りの世話をすべてやり、自分は制作に没頭していられる居心地のよい濃厚な時の流れを見たダリ。
奇抜な芸術家も、日々の暮らしの中でおいしそうなチーズを目の前に、豊かな時間を感じる人だったと思うと不可解な作品が身近なものに、なんだか温かい気持ちにさえなってしまった。

大野さん01
お話しを伺った大野方子さん。「ダリは不安や心地良いといった内面的なことを自分にしかわからない記号で描いています。
そこに彼の高い技術とガラのプロデュース力が相まってこうした作品になったんじゃないかと思うんです」

山道を抜けてダリと出会う

「景勝地ののどかな山道を抜けたら、洋館のような美術館、そしてこんなところでダリの作品に出会うということ自体、私にはおもしろさがありました」
学生時代にも諸橋近代美術館を訪れ、その後、学芸員の募集がかかったのは、地元で就職した後のこと。
「学芸員は狭き門なので、これまでやってきたことをぶつけてみよう、それでだめだったら諦めがつくと思いました」
面接試験の時に初めて冬の北塩原を訪れ、猪苗代町に暮らして5年目。楽しみは夏に採れた野菜で保存食を作ること。
「雪の壁を初めて見て、東北の冬だと思いました。1年目は、積もる雪に驚きながら過ごし、次第に慣れて、雪かきに1時間前倒しで生活しています。せっかく来たのだからやってみようと長い冬の間に、土鍋で燻製を作ってみたり、近隣のペンションの方に聞いて、梅や大葉を漬けたりしています。おにぎりにするとおいしいんです」
冬は雪かきで身体も鍛えられます、そう笑って話してくれた。

大野さん02
まずは作品を楽しんで自由に見ること。もっと知りたいと思えたら、学芸員に尋ねたり知識を広げてほしいと大野さん。
音声ガイドでは、解説で書き切れないプラスαの情報と裏話を聞きながら鑑賞するのもおすすめ。

食べることから、生きることを見る展覧会

「最近収蔵した作品にロブスター、その翌年の収蔵作品には目玉焼きが描かれていたことで、次回のテーマにしようとスタッフと話しました」
今年、大野さんが企画した「ダリの美食学(ガストロノミー)」展では、スペイン随一の美食の地で生まれ育ち、食に対して奇妙な関心と執着を持っていたダリの食の世界を見ることができる。
以前にも食べ物がテーマの企画展は行われており、今回は食べ物がモチーフの作品に限らず包括的に紹介している。
「ある夫人の肖像画には食べ物は登場していません。戦時中の晩餐会は、人脈や表現を広げるために開催され、肖像画のモデルはそこで知り合った方です。ダリは食べたら排泄するという行為も生きるものには切り離せないこととして描いています」
ダリの作品は、タブー視されがちな金や暴力、性的なものも現実と絵画に線引きせずに表されていると大野さん。
「ダリの美食学(ガストロノミー)」は、食べることから、生きることを見る展覧会だ。

カフェメニュー
会期中のカフェでは、自伝でワインについて記していることにちなみ、会津産小森ぶどう園の100%ぶどうジュースが楽しめる。

大野さん05

見る人をびっくりさせる美術館

「あの衝撃がなかったら、私は学芸員にはならずに美術館が好きな人として、一生見る側に徹していたと思います」
子どもの頃、美術館で見たドラえもんを今でもはっきりと覚えている。
「美術館にドラえもんがいてもいいのだと驚き、そこから学芸員という人たちが、テーマを基に作品を集め、あの空間にドラえもんを置いたのだとわかりました。学芸員になった今、あんなに楽しかったドラえもん展の裏にこんな苦しいことがあったのかと、仕掛けを作り伝える難しさを身にしみて感じているところです」
易しすぎる解説はコアなファンは喜ばない、けれど観光で訪れた人も楽しめるよう、そのバランスをいつも考えている。
「書くまでもないと思うことが、一般の方からすれば重要なことも多く、『ここを読んですんなり理解できた』と言われることもあります。毎回、戦っていますね」
企画して展覧会にするまで、ぼんやりとしていたテーマも形式的なかたちにする作業が続き、その切り口をわかりやすく伝える言葉、案内、解説のそこかしこに、学芸員の技術が散りばめられている。
「まだまだ多彩な切り口があるダリと他の作家の作品でも、ここだからできる展覧会をしていきたい。そしていつか、ダリとディズニーが共作した作品に関連した展覧会をやりたいと思っています。そうなったら集大成レベルですが、美術館でドラえもんを見た時の私のように、いつかここでも見る人をびっくりさせて同じような感覚を味わってほしいです」
大野さんの静かな熱い野望。その時、どんな驚きが私たちを待っているだろう。

諸橋近代美術館

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公益財団法人 諸橋近代美術館
前期 ダリの美食学(ガストロノミー) 2017年4月20日(木)〜9月3日(日)
後期 企画展2017年9月11日(月)〜11月30日(木)

〒969-2701福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093番23
0241-37-1088/FAX.0241-32-3332
9:30~17:30 入館は閉館時間の30分前まで。※11月は17:00閉館
6月26日(月)、9月4日(月)〜9月10日(日)は展示替えのため休館 ※展覧会会期中は無休。
あり

2017.05.31取材
文:yanai 撮影:BUN


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