100年ふくしま。

vol.092 ペン画家 安藤光さん

2026/11/05
安藤光さんの作品

100-FUKUSHIMA vol.092

ペン画家 安藤光さん

意味のない意味

10月の三連休、長雨もようやく終わりを告げ、穏やかに晴れた土曜日の午後、福島市のcafe&gallery@peace(アットピース)で安藤さんとお会いしました。
店内のギャラリースペースでは、「途方」というタイトルの個展が開催され、清潔な空間に配された作品は、淡い発光体のように観る者を迎えていました。

安藤光さんの作品

100年ふくしま。では、サイト上で取材希望の方を常時募集していますが、応募はほどんどなく、半ば忘れていた頃、安藤さんから連絡をいただきました。

2009年、今まで本格的に美術に携わってこなかった安藤さんは、突然ペン握り、いきなり描き始めました。
「始めて自転車に乗ったのに、すぐに乗れた」
安藤さんは、そのときのことをそう表現されています。
それは、描けるということは、経験によって成し遂げられるものでないことを意味し、同時に芸術は、努力とは比例しないという残酷さをも物語っていのかもしれません。
安藤には、以前から自分は描けるという気持はあったようですが、そのとおりだったようです。

安藤さんは自身の作品に「意味を持たない描写」という言葉を添えています。だからこそ、観る者は考えようとするのかもしれません。なぜ?と。
安藤さんは「子供の頃、絵を描いているときに、大人から何を描いているかのと訊かれても、これは自転車、これは恐竜と、答えられなかった」といい「自分でも何を描いているのか分からないからだ」と続けます。

ペン画家 安藤光さんと作品

安藤さんは「成果や効率を求められる社会の息苦しさから、解放されるために画を描くようになったのかもしれない」と、作画動機を語ります。ご家族の中にも創作をしている方がおられるようですが、安藤さんの作画動機との関係はよく分からないそうです。
安藤さんは昔から「ボーッとしていることが好きだった」と話します。もしかしたら、そのことも作画動機に繋がっているのかもしれません。

安藤さんは作画中の状態を「作画するときは、音楽やゲームの配信を流しながら描き始めるのですが、しだいに、自分に必要な音楽や場面だけ入ってきて、あとは無心になる」と、表現しています。
それは、作画という行為によって得られる、意識と感覚の特別な境地なのかもしれません。

ペン画家 安藤光さん

安藤さんの作品には、無題というタイトルが付けられています。タイトルがないのではなく、タイトルが無題なのです。
安藤さんは「確固たる意志で、そうしているのです」と語ります。
無題というタイトルを付けることは、放棄することではなく、責任を負うことなのかもしれません。
安藤さんは、今回の個展の案内の中で「無意味なものを描く、それは、何かを否定するためではなく、意味になる以前の感覚に居場所を与える試み」と書いています。
解釈はとても難解なので諦めますが、無意味なことと無価値なことは違うのだということを、教えてもらいました。

安藤光さんの作品
あらかじめ形や描く方向などのルールを設けてから描き始め、同種のペンと同一色のインクのみで仕上げた作品。

細密な描写

実際の画を拡大すると、その繊細な描写に驚愕してしまいますが、そのことをもって安藤さんの画を称賛することには、異論があります。
たしかに、繊細な描写には高度な技巧が用いられていますが、それは、見世物のような芸ではなく、表現を目的とした手段としての行為だからです。
安藤さんの画には、観る人の感受性を試し、分かる人には分かり、分からない人には分からないという、抽象画にとって大切な要素を有しています。

ペン画家 安藤光さん
制作途中の作品を描く安藤さん。この作品のモチーフは染色体の形。
今年の目標は30以上の作品展への出展。

作者が意味が無いという言葉で差し出した一枚の画。その意味を考える意味はあるのだろうか。そんな無限の問いを投げかける画と、意味が無いと言いきる勇気。その出会いに感謝します。

—
安藤光
https://hikaruando.com/

2026.10.03 取材
文・写真:BUN

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