100-FUKUSHIMA Vol.058
LIFETIME 渡辺史貴さん
ライフタイムの夕べ
「ブッコミ!(ブックコミュニケーション)」の開催日は、朝から気持ちが浮き立つ。
たとえ日中の用事が混み合っていようと、今日はあの部屋でだれとどんな話しができるのか、テーブルにはどんな料理が並ぶのか、そんなことを考えながら待ちわびてしまう。
「ブッコミ!」は、新築・リノベーションを手がけるライフタイムが主催する暮らしの講座のひとつで、参加者は各自好きな本を持参し、その本について語りながら、みんなで食事を楽しむという会だ。
会場となる、ライフタイムのショールーム兼オフィスのドアをあける時、いつもいい匂いが迎えてくれる。
お料理担当の方 が、旬の食材で、その日の夕食を準備してくれているのだ。
本について思うことを話しながら、その日会った人たちと食卓を囲むということが心地よい。
だれかが話している間、まわりでは、話しを聞きながら料理を取り分けてくれる人、食べる人、空になったお皿を流しに運ぶ人の姿があり、食事が終わる頃には、やはりだれからともなく台所で洗い物を始める。
そうしたところで、ここに集まる年代も職業も異なる参加者たちにいつも親しみを感じる。
かたづけが済んでも話しは尽きず、まだ話し足りないという気持ちを残しながら、お開きの時間となり、ただただ、いい夜だったと思いながら家路につく。
コミュニティはできていくもの
「ライフタイムを始めてから、お客様、仲間、友だちとも呼べる人たちとゆるやかにつながり、心地よいコミュニティができてきたと感じています。コミュニティはつくるものではなく、できていくものですね」
ライフタイム株式会社代表の渡辺史貴さん。
住宅、店舗、事務所の新築・リノベーションを手がけるライフタイムは、郡山市七ツ池にショールーム兼オフィスを持つ。
46年前の古い建物をリノベーションして生まれ変わったオフィスは、暮らしづくりの事業として開催されるワークショップ、イベントの会場にもなる。
ショールーム兼オフィスには、渡辺さんがこれまでに集めてきた、レコード、ステレオ、カメラ、絵、普段使っている自転車などがあり、ライフタイムの「暮らしのスタイル」がよく表れている。
「ここにあるのは、私が学生時代から集めていたものです。当時と同じ部屋にいるなと感じます」
各部屋にいる、素朴で愛らしい木彫りの置物をのぞいていると、なんだかいいでしょ、と渡辺さんがいう。
シリーズで揃えたものかと思いきや、リノベーションを行う古い家を片づけた時に見つけたものだという。どうやら先の家主が趣味でつくったものらしい。
渡辺さんは、学生時代にビジネスを学ぶためアメリカへ留学し、音楽やインテリアが好きで、日本の友人たちへのお土産をダンボールに詰め、年に一度帰国した際に渡していた。友人の手に渡ったお土産が、輸入雑貨を扱う会社代表の目に止まり、今後の店舗展開の相談を受けるなど縁がつながっていった。
帰国後は、ビル建築を主とする会社で働いた。
「その頃は、規模の大きな案件を扱っていましたが、その後、空き家が問題となり、それを解決するひとつの手段としてリノベーションを提供するため、ライフタイムを始めました」
現在の仕事は、これまで積み重ねてきたことと、社会が求めることとがうまく重なっていったという。
「住宅を扱うプランナーとして、お客様の好みやセンスを読み解くのが自分の仕事です」
これまで携わってきた住宅それぞれに個性が光るのはそのためだ。
「会社を始めてから、プロ同士のお付き合いが増えてきました。設計士や現場のスタッフとのやりとりには、こちらの希望に対して、こうしたらどうかと自身の知識と技術で表現して応えてくれる。そうした付き合い方があります。長期的に見て、さまざまな要素の継続的なバランスがとれているということが大切だと思います」
先の「ブッコミ!」は、ライフタイムが始まる以前から、普段から読書量の多い渡辺さんが知人に依頼されて企業などで本の読み方を教えてきたことがライフタイムの暮らしの講座に引き継がれている。
「本を読むことを教えて欲しいと言われますが、まずは『本を理解する』という誤解を解いた方がいいです。本はただ読めばよく、それはだれにでもできることです。その人が読む本を知ることは、その人を知ることにもなり、相手を理解しやすくなります。特に職場で家族よりも長い時間を過ごしているスタッフ同士で行えば、仕事とは異なるコミュニケーションが図れ、それまで知らなかったその人の一面を知ることができます」
その日会った参加者同士で、これまで触れてこなかったジャンルの本を教え合い、好きな作品について深く話しができることに、新しい発見と楽しさがある。
なにより、普段の仕事とは異なる人たちが集まる中で、いつも中心にいる渡辺さんが、控えめながらもだれより楽しそうにしている。
フェアであること
「仕事をするには、フェアな関係であるかどうかが重要で、僕は駆け引きが得意ではないので、やりません」
時たま他社との競争を求められるが、なんだか目的がずれてしまうし、そこにはきっとお客様の満足はないだろう。そんな言葉に、ライフタイムらしさがある。
さまざまな人たちが、ここで親しみを持って集うのは、きっとそういうことなのだろう。
渡辺さんがライフタイムを始めてうれしかったのは、心地よいと思うコミュニティができたことと、そこから起業しようとする人がいることだと教えてくれた。
「今、若い人のスタートアップを支援するのも仕事の一つになっています。自分が異分野から独立したとき、やはり大変な思いをしました。苦労は買ってでもしろという言葉もありますが、つらくない方が良いし、そうならずに成功するストーリーを考えてあげたいと思っています」
なにかをはじめようとする時、はじまりの場所にライフタイムを選ぶ人たちがいる。
「ここで行われているワークショップやイベントのほとんどが、外部からの持ち込みにより開催に至っています。その方にとって、本当にここで良いのか、別の場所でやった方がうまくいくのではないかと思う時にも直接お話しています。相性もあると思うのです。なにかをやろうという人には、どこで始めようとも、うまくいってもらいたいと思っています」
昨年のブッコミ!の帰り道だったと思う。
これからまた、なにか新しいことを考えているんですかと、尋ねたことがあった。
「『ボディコン!』、どう?いい響きでしょ」
ボディコントロールのことだよと言われて、納得し、みなで感心したのを覚えている。
そのあとすぐ、柔整師、パーソナルトレーナー、栄養士によるパーソナルトレーニングのイベントがライフタイムで開催され、現在、その方々は郡山駅前で整骨院、スタジオをオープンさせた。
渡辺さんがプロデュースを行い、海が好きだというお客様のため、共有スペースは、旅先で見た海を連想させるブルーでスタイリングされている。そこが、これからどんな場所になっていくのか楽しみだと話してくれた。
「思いついたら始まってしまう、これまでもその連続でした。ここでやっていることは、無理せず僕でもできることです。自転車と一緒で気持ちよくてやめられない、そんな感じです」
ライフタイム株式会社
https://lf-time.com/
〒963-8831 郡山市七ッ池町5-2
024-953-7414
2020.09.25 取材
文:yanai 写真:BUN