100年ふくしま。

vol.038 猪苗代町 佐瀬真さん

2018/12/17
vol.038 猪苗代町 佐瀬真さん

100-FUKUSHIMA Vol.038

猪苗代町 佐瀬真さん

福島県のほぼ中央に位置し、郡山市、会津若松市、猪苗代町に接する猪苗代湖。
夏は湖水浴、マリンスポーツ、イベント会場で賑わい、冬になればシベリアから白鳥やカモが多く飛来する湖です。
砂浜があり泳ぐことができる湖は、全国でもめずらしく「子どもの頃は、海だと思っていた」という人も少なくありません。
一年を通して人々を楽しませてくれる湖として知られる一方、その豊かな水は、郡山市で80%、会津若松市55%の重要な水道源として地域の生活、農業を支えています。
そんなかけがえのない水環境を守ろうと活動する人たちを、今回は、猪苗代湖の保全活動の面からご紹介します。

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【 猪苗代湖について 】
猪苗代湖は、旧硫黄鉱山の廃鉱口から強酸性の地下水や沼尻温泉と中ノ沢温泉の強酸性の源泉が長瀬川を通じて流入するため、湖岸付近以外の湖水は、酸性を示します。また、鉄イオンやアルミニウムイオンの濃度が高いことから、長瀬川からの流入水が猪苗代湖で中和される過程で、これらのイオンと有機性汚濁成分やりんが吸着・結合して湖底に沈殿するという自然の浄化機能を持っています。
近年では、湖水の中性化が進み、自然浄化機能が低下、湖全体の環境の悪化が懸念されています。

美しい猪苗代湖

「私も子どもの頃からよく湖で遊んでいました。10年前に私が町に帰ってきた頃、町にとって有効な財産であるはずの猪苗代湖が、町の観光に活用されていないことを知り、残念に思いました」
猪苗代町で生まれ育った、町議会議員で商業カメラマンの佐瀬真さん、65歳。
現在、NPO「輝く猪苗代湖をつくる県民会議」・猪苗代ロータリークラブで、湖の水質保全活動とそれに伴う観光への仕組みづくりを行っています。
佐瀬さんは高校卒業後、東京の写真スタジオに入社し、その後、商業カメラマンとして独立。実家でひとり暮らしだったお母様との同居をきっかけに、2008年から再び猪苗代町での生活を始めました。
帰郷後は、カメラマン業と写真教室の講師の仕事をしながら、町内の畑を借り、長野県から持ってきた品種、皮と実が青い大根の栽培に励みました。佐瀬さんは、町の特産品として、この大根を会津「葵」大根と名付けたプロジェクトの発起人でもあり、会津葵大根は地元のお店で季節限定のそばや肉料理に使われています。
「いつも身近にあった猪苗代湖が、平成14年から17年度まで、環境省から『水質日本一』という評価を得ていたことを、帰郷してから知りました。その後は、水質評価のランク外になっています。そこで、水質の保全を見直して美しい湖を取り戻そうと活動が始まりました。それは、湖水を水道源としている地域の生活水、農業を守ることでもあり、猪苗代湖をきれいな湖にすることは、やがて町の観光や経済につながっていくのだと思っています」

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佐瀬真さん。「猪苗代町に帰ってきたことで、生まれ育った町をよくしたいと思いました。観光としてもポテンシャルの高い町で、砂浜を利用してマリンスポーツの大会、マリンピックを開催してみたいです」

日本一きれいな湖を目指して

専門機関の調査によると、猪苗代湖は、水質の良好な湖本体と水質の悪化した北部水域の二面的特性があることが確認され、湖岸付近で起こる、ヨシ、ヒシ、漂着水草の腐敗が水質悪化につながっていることがわかりました。
これらの植物の成長は、藻類やアオコなどの発生を防ぐことに役立ってきましたが、近年では、ヨシが水面を覆ってしまうほど、繁茂が早くなってきています。放っておいても秋には、種(実)だけを残して、茎や葉の部分は腐って水に溶けていくので、ほとんど姿は見えなくなりますが、問題はその時、せっかく成長時に吸収した富栄養物質を再び湖に戻してしまい、水中で腐る際に水質を悪化させることです。
そこで行われた対策が、湖岸に打ち上げられた大量の水草回収です。
「この活動は2010年から福島県のロータリークラブで水草回収事業として5年行い、その後、NPO輝く猪苗代湖をつくる県民会議が引き継いで4年、今年で延べ9年の活動になります。まだまだ道半ばですが、水質日本一に戻った時には、震災後のさまざまな福島への風評も吹き飛ばせると思っています」
毎年9月下旬から11月上旬の毎週土日に活動する水草回収には、県内外の個人の方はもちろん、企業・団体の参加もあり、一度に数百人のボランティアが集まります。
「身近な環境とその問題を知ることは教育にもつながり、県内外の企業・団体のCSR活動にも役立っています。多くの賛同が得られるのには『水質日本一』というわかりやすい目標と、体を動かし汗を流す作業のやったぞという充実感と達成感が得られるからだと思っています。また、猪苗代ロータリークラブの新しい試みとして、ヒシの回収事業を猪苗代町のスカウト協会(ボーイスカウト・ガールスカウト)と行うことが出来ました。水遊びのように楽しんでもらえたことが嬉しいです」
佐瀬さんは毎回活動の様子を撮影し、参加者の様子やその日の出来事をご自身のフェイスブックで紹介しています。

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上:この夏、ヒシ狩りに参加した子どもたち。下:企業・団体によるヒシ殻、水草回収の様子。
9月下旬から11月上旬の週末、猪苗代湖には県内外からの多くのボランティアが活動しています。

猪苗代湖から、ギフトボックスへ

ヨシの利活用として、持続可能な仕組みを作ろうと考えていたところ、今年、ヨシの水質浄化作用に注目したイギリス生まれのメーカーで化粧品・バス用品を扱うラッシュジャパンが新たな紙パッケージ資材のパルプとして利用することが決まりました。
「ヨシの活用については、自分たちのようなボランティアだけではできなかったことです。これからヒシも他に利用できないか、課題も可能性もまだまだあると思います」
猪苗代湖のヨシを使ったラッシュの「ヨシボックス」は、クリスマス限定のギフト商品に使われ、猪苗代湖をまだ知らない、見たことのない人の手にも届けられます。
これは、9年目の新たな可能性の兆し。
湖を守り、活用して、暮らしを支える。
それが、佐瀬さんが考える、水質日本一の猪苗代湖です。

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猪苗代ロータリークラブ
http://www.inawashiro-rc.com/

NPO「輝く猪苗代湖をつくる県民会議」
http://inawashiro-mizukankyo.com/

LUSH JAPAN「葦(ヨシ)活用による猪苗代湖の水質浄化 」
https://jn.lush.com/article/phragmites-paper-from-japan-wetlands

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佐瀬真
元猪苗代町議会議員
カメラマン
会津若松地方広域市町村圏整備組合議会 議会運営副委員長
会津広域観光推進議員連盟 理事
NPO「輝く猪苗代湖をつくる県民会議」理事
猪苗代湖観光推進連絡協議会「ぐるーっと猪苗代湖」企画委員長
NPO「日本ステッピング協会」理事 福島県支部長
会津「葵」大根開発プロジェクト 代表
低温除湿乾燥6次産業化 推進委員
猪苗代ロータリークラブ 2018-2019年度 パスト会長
(2018年12月現在)
https://ja-jp.facebook.com/mibi3134

2018.10.29 取材 文:yanai 写真:佐瀬真(ボランティア活動の写真)、BUN

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