100年ふくしま。

vol.037 トラットリア バール ラ・ギアンダ 加藤智樹さん

2018/11/29

vol.037 ラ・ギアンダ 加藤智樹さん

100-FUKUSHIMA Vol.037

トラットリア バール ラ・ギアンダ 加藤智樹さん

おいしいって幸せなこと。

「ギアンダ」は、イタリア語で「どんぐり」のこと。
そんな素朴な名前を持つトラットリアバール「ラ・ギアンダ」は、福島の食材を使い、その持ち味を生かした料理を出すイタリアの郷土料理の店だ。
久しぶりに会う友人とラ・ギアンダの食卓を囲んだ。
元気にしてた?
この頃どう?
グラスを手にしながらのたわいのない話は、気持ちを楽にしていく。
メニューには、わからない料理がたくさんある。
これはどんな料理なのだろう、どんな食材でどんな味なのだろうとあれこれ想像し、考えているときが楽しい。
料理がくるそのたびに笑顔がこぼれる。
隣の席に料理が運ばれてくると思わず目で追う。
おいしいですか、どんな味ですかと問いかけたい気持ちをがまんする。
おいしいはいちばん幸せに近い。
だから料理人は「おいしい」を届ける幸せの使者。そして人は、幸せをいただきに料理店を訪れる。

vol.037 ラ・ギアンダ 加藤智樹さん

地産地消。自分たちが住んでいる土地でとれたものを使って。

開店前の仕込みの時間、店内のカウンターに地元産の野菜が並ぶ。
キャベツ、カリフラワー、カブ、シイタケ、カボチャ、サツマイモ。
キャベツは葉がぎっしりとつまり、新鮮そのもの。紫色のカリフラワーは美しく、糖度が15.2とあるカボチャに驚く。
「今朝、採れたばかりの野菜たちです。きれいでしょう?」
オーナーシェフの加藤智樹さんは目を輝かせていう。
そんなときに相馬から福島県沖で獲れたヒラメが届いた。
「このヒラメは常磐(じょうばん)ものと呼ばれ、高い人気があります。肉厚で味がとてもいい」加藤さんは、活きのいいヒラメを見つめながら何度も頷いた。
店内の壁に貼ってあるイタリアの地図には、点在するいくつかの州が描かれており、加藤さんは福島県もそのひとつの州として捉えている。
「ここがイタリア、自分の中の福島県はこの辺かな」そう言いながらクスリと笑いイタリアの下方を指さした。
加藤さんは、地産地消を目指し、地元の食材をイタリアの郷土料理と結びつけて独自の料理のあり方を模索しながらこの店を始めた。オープンは、2013年10月。今年で5年になる。

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自分に何ができるか、恩師との出会い。

「学生時代はずっと自転車をやっていました。夢はプロの競輪選手だったのですが、怪我をしてしまい断念しました」
自分に何ができるか。社会人になってからも模索する日々が続き、しだいに飲食業に心が向いていった。
日本調理技術専門学校に入学すると一人の講師との出会いが待っていた。
「その先生は、東京にあるイタリアンレストランの有名シェフで、日本ではイタリア料理の重鎮と呼ばれています。料理のことはもちろん、料理人はどうあるべきかというアドバイスをしてくれました。そのおかげで料理人としての基本ができ、あの時の出会いがなかったら今の自分は無かったと思っています」
その後、加藤さんは麻布にある恩師の店、さらに目黒、会津若松市のイタリアンレストランで修業する。
「どの店も有名店で繁盛しており、コース料理も出していました。だから忙しさは尋常ではなかった。その中で常に頭を動かし、4つ5つの料理を同時進行することや自分をコントロールすることを覚えました。例えば伝達事項は短い言葉で的確に言う。そして物事を瞬時に判断することの大事さも学びました。東京の店にいる時に、行ってこいと背中を押され一ヶ月ほどイタリアで過ごしたことがあります」
加藤さんはイタリアで、その土地の風土と食材の関係や本物の郷土料理を学び、将来、自分の店はイタリア料理をカジュアルなトラットリア(イタリアの気軽に入れる食堂)でやろう、食材は地元のものを使おうと決めた。

vol.037 ラ・ギアンダ 加藤智樹さん
vol.037 ラ・ギアンダ 加藤智樹さん

人との出会いや繋がりは、自ら動くことで生まれる。

「食材を見てから作るものを決めます。食材が届いた時のドキドキ感や生命力あふれる野菜や魚を見た時のワクワク感、そういう感動が料理人には一番大切なことだと思っています。メニューは、むしろ何の料理かわからない料理名でもいいと思うのです」
自分は、ものごとを始めるときはとことん考え、覚悟を決めて行動する。だから結果的に失敗しても後悔はしない。加藤さんは自身のことをそう話す。
農業や漁業、生産者一人一人との出会いは宝物のようだ。そう考える加藤さんは、直接会いにいくことを大切にする。奇跡のような人との出会いや繋がりは、自ら動くことでしか生まれない。これが加藤さんの信条だ。
「自分に興味をもってくれた農家の方に、どんな野菜が欲しいの?それを作るから教えて。そう言ってもらえた時は、ああ、信頼していただけたのだと本当に嬉しかったですね」
加藤さんは福島県の食材を探し求める中で相馬の漁師さんと巡り会うことができた。
「一匹のサバでも、漁師の方から直接届くサバは新鮮さが全然違う。だからどう料理をしたら漁師の方にもお客さまにも喜んでもらえるかを魚が届くたびに考えます」

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どんなことにも興味を持つ。

例えば、野菜は毎日料理に使っていても、手にするたびに気づかされることがある。いつも同じ色や形をしているわけではなく、味も少しずつ違っている。
季節が変わる中で、八百屋さんの店頭に並んでいるもの、値段も安く買いやすいものが旬の野菜。加藤さんは店先で、今何が出回っているか見るのも楽しみのひとつだと話す。いろんな野菜、食材に興味を持ち、気がつけば一生懸命キョロキョロしている自分がいると笑う。
「どんなささいなことでも、そんなの知っているよ、とは思わない。むしろ知らないことが多いし、気になるものも多い。これからもずっと、どんなことにも興味を持って生きていきたいですね」

vol.037 ラ・ギアンダ 加藤智樹さん
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山に登る。山で遊ぶ。

加藤さんは、山登り、渓流釣り、バイクなど自然の中で風を感じることが大好きだ。
「山に入ると山の匂いを直に感じることができます。季節によって山の匂いは変わる。木の香り、土の香り。右と左の枝の匂いも日の当たり方で違います」
山で遊ぶことは加藤さんにとってエネルギーをチャージするなくてはならない時間だ。
「大好きなのは、地元の安積山です。標高1,009メートルの山でパノラマの景観は最高ですね。日帰りで3時間ぐらいかな。短い時間で、ちょっと行って帰ってこられるのもいいですね」
山へちょっと行って帰ってくる。カッコいいですね。

イタリアでは、ドングリはおまじないとして昔から親しまれています。
子どもが食べ過ぎてお腹をこわした朝、おばあちゃんがポケットにそっとドングリを入れてくれ、子どもがポケットのドングリを触っていると良くなるといわれているそうです。いいお話ですね。

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トラットリア バール ラ・ギアンダ 2020年11月閉店しました。
〒963-8862 郡山市菜根4-25-15
024-983-7367
火〜金曜 11:30〜14:00 / 18:00〜23:00
土・月曜 18:00〜23:00
日曜
あり

2018.10.12取材
文:kame 撮影:BUN

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