郡山全集|郡山の手仕事職人
015 (株)ノア楽器 樋口克也さん
価値ある楽器をなおす、誇れるリペア職人。
管楽器・弦楽器・打楽器からピアノまで、楽器全般を扱う専門店、ノア楽器。音楽を楽しむ人たちからあつい信頼を寄せられている楽器店だ。販売だけでなく、リペアなどアフターフォローも積極的に行っている。店内には、修理を必要としている楽器が所狭しと並べられ、順番を待つ。
会津、福島、白河と福島県全域から年間3000本以上のリペアを受ける。
「今まで一度もクレームはありません」と社長の五十嵐栄則さん。
全国でも数多いリペア職人の中で10本の指に入るだろうと五十嵐さんも太鼓判を押すリペア職人、樋口克也さんに話を伺った。
「20歳の時から15年間、ここでずっとこの仕事をしています。価値ある楽器をほとんど手作業でなおしていきます。誇れる仕事だと思っています」
誠意を感じる丁寧な話し言葉が印象的な樋口さんだ。
「リペアスクールは楽しかったですね」
樋口さんは高校卒業後、東京のリペアスクールへ入学する。
「高校時代は吹奏部でティンパニーをたたいていました」
吹奏部では部長をつとめる。友だちとバンドも組みドラムをやったり、音楽に囲まれた学生時代を送ったという。
小さい頃から細かいことをやるのが得意で、よく模型を作っていましたと樋口さん。
「楽器にたずさわる仕事をしたかった。手先の器用さには自信がありました。楽器専門のリペアという職業があることを知りこれだ、と思いました。リペアスクールは楽しかったですね。チューニングのしかたや、ドラムの扱い方まで学校の先生が熱心に教えてくれました」
新しいことをどんどん教えてくれ、尊敬できる素晴らしい先生だったという。
「顔なじみの子供たちもたくさんいます」
作業台に広がるたくさんの見なれない道具。
じっと見続ける目の先は、ほんのり赤く染まった手元。作業台には鈍く光るサックスが静かに横たわっている。指先で年季の入ったペンチがこきみよく動く。ひとつの楽器を直すには、いろいろな道具が必要だ。
キサゲ、ピンセット、ドライバー、ペンチ、針金、綿棒。
「このキサゲは17年間使っています。手にしっくりなじんでこれは手離せません」大切なマイ道具だという。
「何気に役にたつのはこの綿棒です」細かいところのホコリや汚れをとったり、みがいたり。尊敬する人は綿棒を考案した人かなと小さく笑った。
「本番前の急なトラブルに対処するためです。会場内の湿気などで楽器の状態がおかしくなるのはよくあることなのです」
演奏前の緊張感の中でのトラブルは子供たちにとってどんなにか不安だろう。浮き足立ちそうな子供たちの心をリペア職人は淡々とクリアしてくれる。
楽器を直す手元を祈るように見つめる子供たちの目が見えるようだ。
「顔なじみの子供たちもたくさんいますよ」
演奏が終わって、ホッとした子供たちからの「ありがとうございました」の言葉がなによりも嬉しいという樋口さんだ。
(株)ノア楽器
- 郡山市堂前町27-10
- 024-922-1094
- 024-922-2180
2007.05.23 取材 文:kame 撮影:BUN