郡山全集|郡山の読書空間
002 郡山駅前広場
駅前の広場
風に揺れる樹の下で
久米正雄が晩年を過ごした鎌倉の邸宅をそのまま移築した木造の家は、玄関に足を踏み入れただけで心がしんとするようだ。
郡山駅前の広場に立つ。お昼前の広場にはゆったりと時が流れていた。
ゆっくりとした足取りで婦人が歩いて来る。買い物の途中だろうか。紙袋を片手に空を見上げる。ついこの間までの強い太陽の光りがこころなしか穏やかになっている。
婦人は大きな樹の回りを囲むベンチに腰をおろした。ときおり吹き渡る風に木々が揺れ、葉がそよぐ。バックの中から一冊の本を取り出し、ひざの上に置いた。すぐには読もうとはせず、道行く人をながめている。やがて誘われるように本を開き静かに読み始めるのだった。
郡山駅前は大都会のそれよりも混雑はしない。人通りもちょうどいい。時間によっては静かで、駅前広場は本を読むのにはもってこいの場所だ。
バスを待つ間に
駅前のバス停で、女子高校生がベンチに座って文庫本を読んでいた。
短かめの制服からはスラリとした足が伸びている。紺のハイソックスが清々しい。背中には白いリュック。オレンジ色のクマのぬいぐるみがゆらゆら揺れる。時折バスプールを見回してため息をつく。目を閉じて足をブラブラさせ小さなあくびをする。何かをあきらめたように再び文庫本に目を落とし読みはじめた。次第に横顔が静かになっていく。高校生が本を読む姿はいいものだ。バスを待つ間に彼女は何の本を読んでいたのだろうか。
駅前広場で待ち合わせ
土曜日の夕方に友だちと待ち合わせをした。場所は駅前広場。時間は午後4時。1時間前に行って本を読みながら待つことにする。
土曜日の午後ともなれば人通りも多くなり、学生たちのにぎやかな話し声が広がる。広場にはステージがあり、ゆるやかな階段には若い女の子たちが思い思いに座っている。夏にはうねめ祭りの浴衣コンテストやストリートミュージシャンのライブコンサートが行われた。週末は午後6時以降にもなると、路上ライブの若者たちで賑わう。
本を読むには静かな所、と決めてかからなくてもいい。人々の話し声を遠くに聞きながら、視界の中に行き交う人々を感じながらの読書もいいものだ。
ちょうど朝のまどろみの中、母親が朝ごはんの支度をしている音を耳にしているような安堵感。見知らぬ人々のざわめきはそれに少しだけ似ている。そんな空気に包まれてただひたすら文字を追うだけの読書もあっていい。
2006.09.05 取材 文:kame 撮影:BUN