100年ふくしま。

vol.077 INO CAFE 2nd 横田麻美さん

2023/01/12
vol.077 INO CAFE 2nd 横田麻美さん

100-FUKUSHIMA Vol.077

INO CAFE 2nd 横田麻美さん

イノカフェから INO CAFE 2nd へ

イノカフェ。
今はもうそこには無いその店の常連でこそはなかったが、好きな場所だった。
ビルの前に立ち、本日営業の確認をし階段を上がる。3階まで上がるたびにささやかな達成感に包まれた。
イノカフェのドアを初めて開けたときのことを覚えている。
光あふれるワンフロアーが目の前に広がった。それぞれの姿で置かれている椅子とテーブルが、初めてのお客をいざなうように迎え入れてくれた。
本や雑誌が惜しみなく積み重ねられ、それだけで店主の思いが伝わるような空間だった。
窓辺に後ろ向きに置かれたひとつの低い椅子。そこからの景色はどんなだろう。いつかそこに座って気が済むまで空を眺めたいと思った。
石油ストーブの上で赤いホーローのやかんが静かに湯気をたてていた冬の始めの頃のことだ。
2006年にスタートしたイノカフェは、2021年2月13日23時過ぎに起きた大地震で立ち入り禁止建物になった。その年の6月に現在の場所に移転し店名を新たに INO CAFE 2nd として再スタートした。

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働きものだったイノばあちゃん

「イノとは、ばあちゃんの名前です。私は働きもののばあちゃんに育てられました。人が好きだったばあちゃんは、下宿業をしていて北海道から沖縄までの学生さんの面倒をみていました。常に10人くらいはいたと思います」
店主の横田麻美さんは、小さい頃から下宿生たちと一緒に茶の間でご飯を食べていたと話す。
「中学生になると、何から何まで特に料理はきびしくしつけられました。生き字引のような人で、ものは粗末にするな、手を抜くな、人はその日の食べるもので生きているのだと教えられました」
まるで蟻のように朝から晩までせっせと動いたばあちゃんを横田さんは大好きだった。カフェをオープンする際、店名は迷わずばあちゃんの名前をつけた。カフェのお皿やカップには、蟻のイラストが素敵に描かれている。

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カップやお皿に描かれた3匹の蟻さん。まるでイノばあちゃん、お母さん、麻美さんの3人のようです。

女の人がひとりでも来られるような場所を

「小さい頃は、珈琲好きな父親と毎日のようにカフェに行っていました。子ども心にも珈琲の香りやゆっくりと過ぎる時間、愉しくお喋りできる空間っていいなあと感じていました。あっ、私、大阪生まれなんです」
幼い日、大阪に住んでいた頃の父親との思い出だ。
横田さんは以前、福祉施設で保育士の仕事をしていた。
「大学を卒業してすぐに、心身障がい児の通園施設に勤めました。毎日、子どもたちから学ぶこと、気付かされることが多かったですね。純粋無垢な子どもたちと過ごした時間は今も心に残っています。20年近く子どもたちと関わってきましたが、私の母親が病気を患ってしまい、仕事を続けることが難しくなり辞めることを決めました」
母親を介護しながら出来る仕事はなんだろう。それは横田さんにとって自分の店を持つことカフェをやることだった。
イノばあちゃんの娘である横田さんの母親も料理が上手な人だった。実は、娘と一緒にカフェをやることが母親の夢でもあったと話す。
母親とふたりで考えた店のコンセプトは、「女の人がひとりでも安心して来られる場所」。
少しずつ弱って行く母親、それでもあれこれと話し合って進めていった。
オープンするまでのふたりで過ごした月日は、かけがえのない時間だった。
完成した日には、母親をおんぶして3階まで上がったと話す。
「私が思うカフェは、自宅のリビングの延長。いつも母親がいて、珈琲を飲みたい時は淹れてくれて、何か食べたい時には作ってくれる。そんな自分の家で過ごすように気軽に気兼ねなく、ゆっくりとくつろげる場所。 INO CAFE 2nd がそんなカフェとなるのが私の理想なのです」

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助けてくれる人たち、3.11後に出会った人たち、家族に感謝を

「私はワガママだと言われます。その通りで、それ故に出来ないことも多くそれでもこの場所に来てくれる方たちがいることは本当にありがたいことです」
オープン当初から何かと助けてくれる友人や常連のお客さま。そして2011年3.11後に出会った各地の人たちに感謝していると話す。
「原発事故後、外部被ばくや内部被ばくの回避を思うようになりました。今もその思いは変わらない。私がここで出来ることは、一食でも内部被ばくを軽減できる食事をと願い、食材から自分なりのこだわりで選び提供することです。意識を同じくする人たちと新たな繋がりができ、かけがえのない仲間を得たと感じています」

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「家族には何も相談せずに決めてしまって…。夫と息子には事後報告的に話すと、どうせやんないと気が済まないんでしょ?家事、育児に皺寄せしないことが約束。と夫は許してくれました。当時、小学生だった息子は、ボクが行ける場所が一つ増えるんでしょ?いいよ、と喜んでくれました」
家族の理解があったからこそ実現できたことだと話します。
そんな横田さんの作る料理のレパートリーの豊かさに目を見張ります。北海道の友人からタマネギやジャガイモ、カボチャが届けば、さあこの子たちをどう美味しく食べようかワクワクすると言います。その時の満面の笑みが目に浮かぶようです。
カウンターの側にイノばあちゃんの写真が掲げられています。御年97歳の頃のお顔です。チャーミングで穏やかな笑顔でオープンの時からずっと見守ってくれています。

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INO CAFE 2nd
〒963-8024 福島県郡山市朝日三丁目5-25村上ビル5号
月〜木 11:00〜19:00 ラストオーダー 18:00
  金・土 11:00〜21:00 ラストオーダー 20:00
  日・祝日 11:30〜18:00 ラストオーダー 17:00
火曜日
建物の西口(裏口)に2台

2022.12.19取材
文:kame 撮影:watanabe

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