100年ふくしま。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

2021/03/25
vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

100-FUKUSHIMA Vol.062

小さな森の和美術館 大島和子さん

美術館への坂道

「小さな森の和(やわらぎ)美術館」は、のどかな山あいにある。
道沿いの石づくりの看板には、腰をかけたくなるような台があり訪れる人に何かを語りかけるようだ。
石の三方にはこう刻まれていた。

小さな森の和美術館
ここにあなたの座る場所がある
動いてこそ感動はやってくる

美術館へはゆるやかな坂道が続く。
道の途中には草花が風にゆれ、顔をあげるとしだれ桜の大きな木が迎えてくれた。
坂道の先に古民家が見える。ここが美術館だ。
館を囲む広い敷地は木々や草花が生育する場所。木の枝には鳥が飛び交い、草むらには虫たちが生息する。
館長の大島和子さんが朝に夕に空を眺める場所、移りゆく風景の中で自分自身に立ち返る所でもある。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

訪れる人の憩いの場所でありたい。

「この館は120年余の年月を経た古民家で、代々受け継がれた祖父の家でした。母の生まれ育った家でもあり、放置されている家屋を見るたびになんらかの形で生かせたらと考えていました。趣味で集めていた絵画や彫刻をたくさんの人に見てもらいたいと思ったことがきっかけです。日曜日だけ開いている小さな美術館です」
多くの人の力を借りて2009年から改修が始まり5年後の2014年6月1日に開館することができた。
美術館の名前には、大島さんの思いが込められている。
「小さな森の和美術館」。
やわらぎという言葉からは、憩い、なごやか、穏やかさが思い浮かぶ。
「長田良夫氏・佐藤賢太郎氏の作品を中心に多くの作家さんの作品を展示しています。あらゆる分野で活躍するアーティストの表現の場としても自由に利用していただけたら嬉しい。今はコロナ禍で企画もままならないですが、訪れる人の憩いの場所でありたい。ひとつの作品との出合いが毎日の暮らしのささやかな潤いになれたらいいですね」
お茶会などを楽しめるなごやかな和室の間や、寒い季節には囲炉裏を囲んで穏やかな時を過ごせる空間もある。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん
vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

小さい頃から遊びに来ていたおじいちゃんの家

大島さんは、東京都江東区亀戸の出身。おじいちゃんの家には小さい頃から遊びに来ていた。
「この辺りは昔とそんなに変わっていませんね。夏休みには川遊びをしたり、シジミを捕ったり楽しかったです。隣の家では炭焼きをしていたのを覚えています」
幼い頃は、川は広く大きく見えた。家までの坂道も長く急に感じた。全身で野山を駆けめぐり夕暮れまで遊んだ。
「目の前に広がる風景には、過ぎ去った日々の積み重ねがあるように思います。山にも川にも畑や田んぼにも、人の記憶がとどまっている。風景の中で人は生きているのですね」

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん
vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

大島さんのこと

大島さんは、福祉の仕事をしながら美術館の運営をしている。
「思うことがあり、38歳の時に福祉の勉強を始めました。福祉の専門学校では18歳ぐらいの人たちと一緒に学びました。若い人たちとの学校生活は、新鮮で楽しかったですね」
その後、福祉の道を歩み始め充実した月日を送るようになっていく。
休日には好きな絵や美術作品を求めて展示会やギャラリーなどを巡ることが楽しみだった。
ある日の休日、一件のギャラリーを訪れたときのことだった。
壁に掛けてある一つの絵に釘付けになった。
「メキシコシティというタイトルの絵です。この絵は長田良夫氏の作品で長田さんがメキシコに住んでいる時期に描かれたものです。メキシコの町のビルの上に浮かぶ雲に心を奪われました」
何故なのか理由はわからない。立ち並ぶビルの上にプカリプカリと浮かぶ、いびつな風船のような雲、その風景から目を離せなかった。
小さな絵で、どうにか買える値段だ。迷わず家に連れて帰った。その時の言いようのない高揚感。それは何にも代えることが出来ない嬉しさだったと話す。
あの日あの時あの場所に行かなければ出合わずにいたかもしれない。そう思える作品を手元における喜びは幸せ以外の何ものでもない。
コレクションのきっかけになったその絵は大島さんの生涯の宝物となり今も美術館に掲げられている。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん
vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

ステキな絵地図ができました。

小さな森の和美術館を拠点に西田町を歩く絵地図ができました。
「画家の中村亞都子さん に描いていただきました。手書きの文字が温かい絵地図です。以前、知人から『ほんだ屋さんでパンを買って美術館で食べる。そんな絵地図を作ったら?』こんなご提案をいただいてずっとあたためてきました。ここ西田町にはいいところがたくさんあります。多くの方に見てほしい絵地図です」
今はコロナ禍で当たり前にできたこと、友人との語らいさえもままならい状況です。
そんな中でも自分のリズムをとりもどして生活を整えていく。
ひとつのテーブルを囲みながらユーモアと想像力を共有できる時間はとても大切。先行きが見えず不安の多い毎日ですが夢もあります、と微笑む大島さんです。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

大島和子さん。
その笑顔に包まれてずっと話をしていたい。そう思った。
何故だろう。
その温かさはどこからくるのだろう。
今日も誰かと語らい、真っさらな笑顔で心をかよわせているだろうか。
絵地図には、大きく手を振る笑顔の大島さんが描かれています。

vol.062 小さな森の和美術館 大島和子さん

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小さな森の和(やわらぎ)美術館
https://yawaragi-art-museum.com/
郡山市西田町丹伊田字上石堂494
024-971-3513
日曜 10:00〜16:00 ※現在は電話での予約制となっています。

2021.01.27取材
文:kame 撮影:BUN

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