100年ふくしま。

vol.067 わかき珈琲 荻野稚季さん

067わかき珈琲

100-FUKUSHIMA vol.067

わかき珈琲 荻野稚季さん

いちごミルクの味

兄弟でコーヒーの仕事をしようと 決めていた20歳の時、それまでコーヒーについては何も知らなかったという荻野稚季さんは、コーヒーの勉強をするために訪れた東京のお店で、一杯のカプチーノに出会った。
「その店で『これから私がつくるカプチーノは、いちごミルクのような味がします』とバリスタの方に言われ、どういうことだろうと思いながらも飲んでみたら、本当にその味がして驚きました。それまで、コーヒーは苦味や酸味を味わうのが大人の楽しみ方であり、そういう嗜みなんだろうという先入観がありましたが、それだけではないと知り、その店のスクールでバリスタの勉強をすることにしました。あの一杯は、あまりコーヒーが好きではなかった僕が、一気にコーヒーが大好きになった瞬間でした」
そのバリスタの方が、これから淹れるコーヒーについて端的に紹介してくれたことで、自身の体験がより鮮烈な印象を残したと、振り返る。

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OBROS COFFEEとわかき珈琲

今から5年前、郡山市合同庁舎通りにあった郵便局跡地が、ガラス張りの建物に変わり、カウンターのみのカフェになったことに周囲は驚いたと思う。
その店が、荻野夢紘さんと荻野稚季さんの兄弟がバリスタとしてスタートし、開いたOBROS COFFEEだ。
「17歳の時、4つ上の兄が、バリスタの仕事に就いていました。もともと僕はお兄ちゃん子だったので、ものすごく興味があったわけではないけれど、兄がバリスタの仕事に就くなら、自分もやりたい、そして、自分たちの店を持ちたいという思いもありました」
その後、弟の荻野稚季さんは、OBROS COFFEEの一員として店に立ちながら、2019年から「わかき珈琲」として焙煎所をスタートさせた。現在、OBROS COFFEEでも、稚季さんが焙煎したコーヒー豆が使用されている。
「店を始めてから、お客様からおいしいと言って頂き、バリスタはコーヒーの味を引き出すのが仕事だという感覚がありました。けれど、OBROS COFFEEを始めて1年が過ぎたくらいに、このコーヒーをおいしくしているのは、自分の前に、生産農家の方々や焙煎をしている人がいるからだと感じるようになり、自分もコーヒーの味をつくってみたいと思ったのが焙煎を始めるきっかけでした」

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そこから、本格的に焙煎の勉強を始め、焙煎所設立を目指し準備期間を3年に設定した。
並行して、以前、東京で飲んだ、いちごミルクの味がするカプチーノのように、自身が魅力的だと思う、いい豆を使った浅煎りのフルーティーな味わいがするコーヒーを多くの人に知ってもらおうと、店を離れて移動販売やイベントに出店。その3年間の活動をOBROS COFFEE1095(365日×3年=1095日)と名付け、資金づくりにも力を注いだ。
「店でお客さんを待つより、自分から行って提供した方が、もっと早くいろんな人に分かってもらえるのではないかと思いました。3年後に焙煎所を作ることを決めて、それ以上時間をかけることは考えず、資金がないなら、その中で買える焙煎機にしようと思っていました。焙煎所の条件は、焙煎時に匂いがでるので、住宅地ではなく周辺が静かな場所を考えていました」
それから3年後、荻野さんはドイツ製の焙煎機を購入。事業所のスペースを借りて焙煎所をスタートさせ、現在は二本松市内にある焙煎所へ自宅のある郡山から週に二回通っている。
「OBROS COFFEEとわかき珈琲は、分けなくてもよかったのですが、店を離れていた3年の間に自分の気持ちの変化がありました。お店で扱うのは、オープン以来変わらず、最上級ランクの豆を使ってきましたが、それがすべてではないと、僕なりに感じました。最高級のコーヒーを味わうならOBROS COFFEEで、それだけではない普段使いのおいしいコーヒーも飲んでもらいたいという考えがあり、屋号を変えた方がわかりやすいと思いました」

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きっかけをつくるコーヒー

わかき珈琲が焙煎豆を提供している、郡山市の「Bakery いずみがもり桑野店」には、子どもからお年寄りまで幅広い年代のお客様がいる。広い年代で楽しめるようにと、スタッフのリクエストを受けて焙煎したコーヒーは、甘みが感じられ、冷めても美味しく飲めるのが特長だ。
「これまでOBROS COFFEEの名前は知っているが入ったことはないという方が、いずみがもりでコーヒーを飲み、じゃあ次はOBROS COFFEEに行ってみようという新しいお客様がいらっしゃいます。そのきっかけに、わかき珈琲がなれたことが何よりうれしく、やって良かったと思っています」
いずみがもりは、荻野さんがやりたかったこと、普段使いのおいしいコーヒーを飲んでもらいたいという思いを象徴するお店になっている。

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質と量のバランス。
エチオピアの農園から一杯のコーヒーになるまで

「コーヒーの質も大事ですが、量を増やして、バランスをよくしていきたい」
荻野さんが使っているエチオピアのコーヒー豆の銘柄アラカは、農園の名前だ。
「現地で農園管理をされている日本人の方が、福島にきて今年の味を教えてくれます。アラカ農園では1年に約300t生産していますが、そのうち自分が買っているのは麻袋1袋30kg分です。質のいいものに焙煎する自信はあるのですが、農家さんに還元できるほど買えてはいないのが現状です。質だけを追い求め続けることは、長い目で見たときに持続可能とは言いがたく、この先農園で作られた300tの豆を全部買うという人が現れたら、その方が農園としてはうれしいですよね。でも僕が買うことができなくなります。なので、これからコーヒーを飲みたいと思うファンをもっと増やして、もっと農家さんから量を買えるようになりたいと考えています」
荻野さんは、一年で2t〜3tを焙煎するが、それでもまだ全然足りていないという。
「いつも肝に銘じているのは、コーヒー豆は農作物であるということ。野菜などと同様に、コーヒー豆も供給過多になってしまうことがあり、よく実って大量に採れたとしても、買ってくれる人がいなくては捨てるしかありません。僕自身、現状としてマーケットが小さいため売り尽くすことが出来ない。いいコーヒーなのはわかっていて、買いたいけれどそれが難しい。遠い国で生産されていますが、バリスタからロースターになって、コーヒーが農作物であるという感覚がより近い距離になってきました」

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「豆の色で味の想像ができ、めずらしい豆が見つかると嬉しく、焙煎するときは緊張感があります」と声が弾む。
右下:ブラジルのイパネマ農園の生豆B35とB65はBOX入り。数字は、同じ山の区画を表す。
同じ山でも育った場所によって味が全く異なる。

エチオピアのアラカ農園で働く人たちの暮らしについて教えて頂いた。
エチオピアのコーヒー農園で働く人たちの一般的な給料は、一日約100円。一ヶ月で約2,500円になる。
アラカ農園では、従業員にもっといい仕事をして、おいしいコーヒーを作ってほしいという考えから、一般的な給料の倍にあたる一日約200円、一ヶ月で約5,000円の給料が支払われている。
エチオピアの公務員は月給4,000円ほどと言われ、アラカ農園でコーヒーの仕事に従事する人の方が高収入になっている。
「もともとエチオピアの暮らしは、自給自足の生活が一般的で、それほどのお金を必要としていないものの、この数年は携帯電話が普及したため、その料金を払うためにコーヒーの仕事に従事する人が増えています。労働環境が悪い農園もある中、アラカ農園では、普段の生活で牛肉やワインを楽しむ人たちもおり、僕が想像していたコーヒー農家さんとは、いい意味で異なり、仕事として成り立っている人たちがいます。そうした話しを聴いてから飲むコーヒーは、楽しみ方も変わり、確かにおいしいなと思います」
それは遠い日本でアラカ農園のコーヒーを飲む人にも、とてもうれしいことだ。

頂点を目指して、特別なコーヒーを提供するOBROS COFFEE。
そして、日常のおいしいコーヒーを目指す、わかき珈琲。
それぞれに、コーヒーをつくる人、楽しむ人、それらのコーヒーがある世界を良くしようする姿勢がある。
コーヒーを通して、広く深く見える世界がある。

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わかき珈琲
https://www.instagram.com/wakakicoffee/

2021.05.26 取材
文:yanai 写真:BUN


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