100年ふくしま。

vol.054 寿々乃井酒造店 鈴木理奈さん

054 寿々乃井酒造店 鈴木理奈さん

100-FUKUSHIMA Vol.054

寿々乃井酒造店 鈴木理奈さん

寿々乃井の酒

入り口には白壁の蔵、松の大木。
森の中をくぐるようなのどかな道を抜けたところに、寿々乃井酒造店がある。
「地元のお米『亀の尾』と裏山からの湧き水でつくる寿々乃井のお酒は、お米が育ちたいように育てるお酒です」
寿々乃井酒造店の鈴木理奈さん。酒蔵の女将として、店に立つほか、ここ数年は地元の酒蔵たちとともに積極的にイベントに参加するなど、これまでにない活動で商品の魅力をお伝えしている。
寿々乃井酒造店の看板商品「寿々乃井 本格酒」は、昔からお客様に親しまれている銘柄だ。
「時代に見合ったわかりやすい、多くのひとに選ばれるお酒を造っていくべきかもしれません。最近流行ってきている純米酒ももちろんあります。けれど私たちのお酒の魅力は昔ながらの製法で、素朴なものだと思います」

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酒蔵の仕事

寿々乃井酒造店は、およそ200年以上続く老舗の酒蔵だ。
山形県出身の理奈さんは、結婚を機に酒蔵で働くことになった。
初めて訪れた時は、その立派な建物に驚き、ここで自分に務まるのかという思いがあったという。理奈さんが24歳の時のことだ。
「私は、早く親を亡くし兄弟もいなかったので、地に足つけて、自分なりの地盤を持ちたいと考えていました。お嫁に来て、初めての仕事は、当時住み込みで働いていた蔵人たちのまかないでした。まだ、家事の経験も少ない頃で、多人数の食事の準備は大変でした。仕事を終えた蔵人にひそひそと『菜っ葉がかたくて、食わんに』なんて言われることもありましたね。料理にもお酒を使っていました。飲んで美味しいなら料理にも使っても美味しいのです」
お嫁に来たばかりの頃の理奈さんは、一日中、鍋を見ていることがあり、食事が終われば次の食事は何にしようかと考える日々。失敗もよくあったと振り返る。
現在は地元雇用になっているが、当時は岩手県からの出稼ぎに来る方が多く働いていた。
「すごいんですよ、杜氏ばかりがいる村では冬になると男性たちがいなくなり、お葬式なども女性たちだけで出来るシステムになっていました。一台の車に相乗りをして出稼ぎに来ていましたね」
寿々乃井酒造店では、冬の仕込みの時期に、5名の蔵人が働き、その後、醸したお酒を理奈さんのご家族と2名のスタッフが瓶詰め、ラベル貼りなど商品づくりを行っている。
杜氏を務めるのは、地元の農家であり酒米「亀の尾」を育てている永山勇雄さん。10代から寿々乃井酒造店で働き、現在70代になった永山さんは、先代杜氏のやり方を繰り返して酒造りを身に付けてきた。
「杜氏は、長く働いたからといってできるものではありません。蔵の責任を担って蔵の環境となる、人の資質が問われるのだと思います。永山さんはどうしたらそんなふうになれるのだろうというくらい、とても穏やかでやさしい方です。その人柄が顔はもちろん、話す言葉にも表れています」
地元の水を使用し、栽培が難しいといわれる「亀の尾」を酒米に、米が育ちたいように育てるお酒。そして、永山さんがつくったお酒だから絶対に間違いがないというお客様もいる。
寿々乃井酒造は年齢層も高いチームで、今も昔ながらの製法を大事に守りながらお酒を造り続けている。

鈴木理奈さん
鈴木理奈さん。「お鍋には具を入れて、酒粕に和風、中華、コンソメなどの出汁を使うとおいしいですよ。試してみてください」
店内_寿々乃井本格酒

そとから見た寿々乃井のお酒

「古いチームであるがゆえに、日本酒の流行はつねに変わっていくもの、それに振り回されたくないという蔵人の意地がありました。そこで金賞を獲れたことは嬉しかったですね」
2019年、寿々乃井酒造店の「まぼろしの酒・大吟醸」が全国新酒鑑評会で金賞を受賞した。
これまで地元に親しまれていたお酒は、全国に広がりを見せている。
「寿々乃井酒造はこれまで営業をしたことがなかったのです。私も子育てが一段落したところで、寿々乃井のお酒を多くの人に知ってもらい、売りたいと思うようになったのは、ここ3年のことです」
理奈さんは新たな試みとして、地元の生産者たちによるマルシェやイベントに出店し、寿々乃井酒造の商品の魅力を伝え続けている。
「行ってしまえば、楽しんで参加できるのですが、実はとても人前に出るのが苦手で、イベントには心を決めて出かけています」
その活動は多くのお客様はもちろん、他の酒蔵の方たちに会えることもまたよい刺激になっている。
「他の酒蔵さんたちのはなやかさを知って、自分たちにはなにがあるのかと思いました。よそのお酒を知ることで、いつも飲んでいたはずの自分のところのお酒の味わいが、素晴らしく感じられ、『この味わいはずっと残したい』と思うようになりました。少し外から自分たちのお酒を見て、改めて知ったのだと思います」
お嫁にきて、いつもそばにあってもちろん美味しいと感じて飲んでいたお酒には、「この先にも残すべき味わい」があった。

酒蔵

酒蔵_蔵人の休憩所
蔵の中の静けさとぴんと張った空気、ほのかなお酒の香りに、思わず息を吸い込んでしまう。

自分の時間に、寄り添うもの

「この酒蔵で自分はサポートするプロになりたいと思います。お酒に関しても、お酒自体が華やかで他のものが霞むのではなく、相手があって支えるような立場として、寿々乃井酒造の基礎の部分になれたらいいなと思ってやっています」
理奈さんは、日々、酒蔵の環境を整えることに従事する。そこには蔵人たちの働きやすさ、お客さんとの関係、寿々乃井酒造店の考えを伝えることも含まれている。
「お酒は真ん中ではなくて、寄り添うものであってほしい。話したい相手がいるとき、美味しいお料理があって飲みたいとき、嬉しいことがあったとき、自分の時間に寄り添ってくれるものであってほしいと思います。『美味しいお酒』がどういうものかは、まだまだ私も勉強半ばで言い切れないところもありますが、人と時間の間で、優しい潤滑油になるのだと思います。毎年大切に造ってきたお酒です。まずは知って頂いて、ご縁があったら飲んで頂けたらいいなと思います」

寿々乃井のお酒

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寿々乃井酒造店
〒962-0501 福島県岩瀬郡天栄村大字牧之内矢中1
0248-82-2021

2020.03.25 取材 文:yanai 写真:BUN


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