100年ふくしま。

vol.046 TOMOSU 渡辺教人さん

Vol.046 TOMOSU 渡辺教人さん

100-FUKUSHIMA Vol.046

TOMOSU 渡辺教人さん

相談所兼飲食店 TOMOSU

真っ白の外観、店舗前には丸太のベンチ。
郡山市桑野にある相談所兼カフェバーTOMOSUは、今年の春にオープンした。
「ここは相談所も兼ねていて、今度から正式に名刺にも『相談所』と入れるようにしたんです」
飲食店の紹介記事を書くために訪れ、相談所という言葉に意表を突かれてしまった。
渡された名刺には、一般財団法人ワンネスグループ、株式会社vertex、その下に「相談所兼飲食店TOMOSU」とある。
TOMOSUのオーナーで、株式会社vertex代表取締役でもある渡辺教人さんは、三春町の出身。
しばらく地元を離れていたが、2年ほど前にワンネスグループの関連会社を沖縄に設立し、今年の春、郡山に相談所兼飲食店のTOMOSUをオープンさせた。
「素人ながらよくできた」という内装は、三春町の木材を使った渡辺さんらスタッフの手作りだ。料理にも同じく三春町で自分たちが栽培した野菜が使われている。
「定年を迎えてもまだまだ元気な地元の方、現役をリタイアされた農家の方に、農業を教えてもらい、自分たちの店でスタッフと一緒に作った野菜を料理してお客さんにお出しする。そういう仕組みを作っていきたいと思っています」
10代で末梢神経障害を患い、その後、グループの施設に入所したことが渡辺さんとワンネスグループの出会いだった。
現在は、これから就労を目指すスタッフと一緒に生活をし、TOMOSUを運営している。
渡辺さんは穏やかに話す。
すべてを理解できるのかはわからず、けれど、ここではいろんなものごとと人の力が大きく巡っている、そう思うことはできた。

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今、生きているという感覚

初めてTOMOSUを訪れてから数週間後に、改めてお話を伺った。
まず知らなければならなかったのは、一般財団法人ワンネスグループについて。
沖縄に拠点を置くワンネスグループは、さまざまな依存症の経験者が中心となって運営し、回復を目指す民間の団体。
施設では、生きる原理となる12ステップを中心とした世界基準の回復プログラムが行われている。
アルコール、薬物、ギャンブルなど、最近ではネット依存症を含むゲーム障害も病気に認定されたばかりだ。
「私も始めは施設の入所者で、回復後にはスタッフとして働きました。2年ほど前から施設を離れ、グループの関連会社というかたちで、郡山で事業を進めています」
10代の頃の渡辺さんは、コンビニに長時間居座りそこでお酒を飲むなどして、度々警察にお世話になることもあった。
そうしてしまう自分の行動や気持ちを抑えるため、処方薬を何十錠と飲み、その影響から身体を壊してしまった。
そんな日々に希望が持てたのは、渡辺さんのお母様の行動だった。
「母は自分の行動が理解できず、悩んで、心療内科の病院が主催する家族会に参加していました。それから母が次第に明るくなっていくのを見て、自分にも希望が持てるようになりました。その病院から薦められ、奈良県にある施設へ行くことを決めました」
郡山市中央公民館では、毎週のように家族会が開かれている。家族が病気になって不安なとき、似たようなケースの人たちが支え合う会だ。
病院から紹介されたのが、ワンネスグループの奈良県にある施設、一般社団法人GARDENだった。
初めは怖かったという「施設」のイメージ。しかし、そんな心配は無用だった。施設での生活は、年齢に関係なく、同じ病気を持つ入所者たちがいっしょに暮らすという穏やかなものだった。
入所から3ヶ月が経った頃、渡辺さんはどうしても施設を出たくなり、奈良から郡山の病院の先生に会いに行った。
そして「先生、やっぱり無理だった。助けて」と言った。
「やっと言えたな、と先生に言われ、この3ヶ月ですべての処方薬をやめ、助けてと言えるようになった。だから戻れと言われました。これまでの診断書をすべて見せてくれ、自分がどんな状態であったかを知り、施設に入って初めて、自分は24時間だれかといれば大丈夫なのだとわかりました」
以前、病院で「僕、日中やっぱりさみしかったんです」と口にしたことがあった。
子どもの頃から話しを聞いてもらえないという思い、離れていく家族との関係にさみしさが募っていった。
周囲からも早く病院へ、入院した方がいい、施設に入った方がいいと言われても、その時はまだ助けてほしいと自分からは言えなかった。
「考えずに、とにかく行動してみなさい」という施設の教えのもと、朝起きて、青年からお年寄りまで同じ悩みを持つ入所者たちと一緒に食事を作り、揃って食べ、外でスポーツを楽しむなど、学校のような時間が心地よかった。初めて、今、自分は生きているという感覚があった。
「苦しさを感じている人がいるなら、今、生きているという感覚を本当に知ってほしいです。やりがいがあって、自分もこんな感覚になれるんだということを一度記憶してしまえば、その先、うつ傾向になっても何度もその感覚に戻ることができるんです。今もその教えのもとにやっています」

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自分の問題と責任

「施設で学んできた12ステップは、ありがとうとごめんなさいがあれば、人との関係はうまくいく、というシンプルな原理です。その中にある『埋めあわせ』という過程は、必ず通らなければならなりません。例えば、昔傷つけた家族、友人、恋人全員に頭を下げること。0歳から記憶をたどり、傷つけた人、傷つけられたと思うことにも自分に原因があったこととして考えていかなければなりません。しんどいですが、すべてを自分の問題と責任にすることで解決できます。ここを乗り越えるととても楽になります」
渡辺さんが地元に帰って来られたのも、家族や友人、地域の方々へ「埋めあわせ」を行ったからだ。
「戻ってこいと言ってくれたのは、幼なじみの友人でした。子どものころから親しかった訳ではないけれど、今は一緒に仕事をする仲間です。『埋めあわせ』には覚悟が要ります。これをやらない施設利用者は多く、プログラムを経ただけで、なんとなく元の生活に戻っても、スリップ(再飲酒、再使用、再ギャンブル)の可能性が高く、回復は困難です。もっと苦しんで自分を見つめなければ。施設に入ったから治るということはありません」
施設退所後、3年間は止められる人が増えているものの、その道のりはかなり険しいといわれている。
「私も職員として働き、何千人と見てきましたが、退所後に、亡くなってしまう人、さらには人を殺めてしまうなど、本当に怖い病だと感じています」

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ヘルプが出せる環境

依存症は、日々生きづらさを感じている自分の状態が原因で、対象に触れるきっかけをつくってしまう場合がある。その「生きづらさ」は多岐にわたり、他者とうまく関係を築くことができない、環境に適応することができない、自己評価が低い、機能不全の家庭に育ったなど、その他、発達障害や精神障害を抱えている場合もある。
普段の生活の中で、もしそうした病の人と接した時、私たちになにができるだろうか。
「今、企業向けのセミナーも行っているのですが、まずは、そのような人たちがヘルプを出せる環境を作ってあげることかなと思います。職場で、なぜできないんだと叱ったとしても、お互いにとって何にもなりません。『どうしたんだ?』と声を掛けるだけでもいいんです」
TOMOSUの相談所について大きく宣伝したことはないものの、渡辺さんを訪ねて、話しを聞いてやって欲しいと会社の部下を連れてくるお客さんもいる。
「まず一緒に食事をしに来ていただき、次にお話を聞きます。そのあと個別で話をして、なにか疾患の可能性があるなら、郡山の病院を紹介して診断を受けてもらっています」

さみしいという力

夜、店に明かりが灯る。木の香りのする店内で料理やお酒を楽しみ、ひとりで一息つくのもいいが、その日居合わせたお客さんと話をするのもいい。
「ここはさみしさを感じさせない場所にしようと思っています」
子どもの頃から、さみしさがあったという渡辺さん。そのさみしさから起きてしまった行動は、周りにも自身にとっても苦しいことだった。
その経験は、似たような思いを持つひとや下を向いてしまうような出来事や経験を持つひとたちに向けられている。
「今、さまざまな事業の仕組み作りを行っています。私が出来る仕事ではなく、例えば、左半身が動かない人や足が動かない人ができる仕事です。研修を受けながら、試しているところです」
国に保障される生活より、自分たちの力で経済力を身につけて生活をしていくのが本当の自立だと思います。
初めて会ったとき、渡辺さんがそう言った。
さみしさはだれにでもある。かつて心身を蝕んだそのさみしさが、ものすごく強い力で背中を押すような自分の味方になってくれることがある。だれかのために、そうしようとするひとがいる。

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TOMOSU
〒963-8025 郡山市桑野3-13-13
024-973-6769
昼11:30 – 14:30、夜17:00 – 23:00  
火曜日のみランチ休業
なし

2019.08.27取材
文:yanai 撮影:BUN


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