100年ふくしま。

vol.044 Ordinary Coffee 齋藤佑二さん

044 Ordinary Coffee

100-FUKUSHIMA Vol.044

Ordinary Coffee 齋藤佑二さん

tetteに来たら

「tetteに来たら、まずコーヒーを買って、じっとしているのはもったいない。テラスもあるからあちこち探検してきて」
読書好きの友人にすすめられ須賀川市民交流センターtetteを訪ねた、休日の午後。
開放的な館内は、ソファで一人コーヒーを啜るおじいさんもいれば、家族連れや勉強をする学生たちの姿もある。
まずは、1階のコーヒースタンドOrdinary Coffeeに立ち寄り、コーヒー片手に探検へ。
途中、好みの本棚を見つけては立ち止まり、3階の「ひだまりのテラス」から町を望めば気持ちがいい。
風が強まってきたところで、室内とテラスをつなぐサンルームのロッキングチェアに腰掛け、数冊の本とコーヒーで読書の時間に入った。
心落ち着く、いい休日の午後だった。

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手を動かしてみよう

今年1月、須賀川市民交流センターtette内のチャレンジショップに出店したOrdinary Coffeeは、これまで「店舗をもたないコーヒー屋」として多くのイベントに参加してきたコーヒースタンドだ。
「自分は群馬出身で、妻も宮崎の出身。それがなぜか須賀川で居を構え、暮らしているんです」
Ordinary Coffeeの齋藤佑二さんがそう話してくれた。
齋藤さんは、東京の大学時代に知り合った奥様の就職先が須賀川市であったことから、2010年の結婚を機に東京から須賀川へ移り住んだ。須賀川には以前から遊びに来ていて、自然があるここで暮らすのもいいなと思ったという。
「広告の営業やラジオの番組制作、その間に主夫の時期もありました。会社員時代は『なにもできない自分』を感じていて、あまり楽しく働けてはいませんでした。ですから、暮らしていくためのお金は必要な分だけでよいから、規模は小さくとも自分の手を動かして人に提供できることをしたいと思いました」
やるならやりたいことにしようと、候補に挙げたのはコーヒー屋、ビールの醸造、陶芸、出家の4つ。
話しをしていると、出家に惹かれた気持ちもなんだか分かる気がする。
4つの中で、初期投資の負担が少なく、短期間で始められること、そして毎日自分が楽しめることがよいと選んだのは、自家焙煎のコーヒー屋だった。
コーヒーのおもしろさを知ったのは、郡山にある自家焙煎のお店で、浅煎りエチオピアコーヒーの花の香りに驚いたことだった。同じ頃にスペシャリティコーヒーやサードウェーブを知り、栽培環境や品質、豆の個性を認めて活かし、そのカップクオリティで適正に値段を付けるという取引の仕方にも共感した。
「生豆を購入し、本を見ながら、試行錯誤で手網焙煎を自宅でやってみたところ、早くから美味しいものができました。初めは節約のためでもあったんです。いつもお金を払っていたものが、自分で豆を買って手間をかけることで安くて、ずっと美味しいものができるとわかりました」

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自分で選ぶ充実感

まず初めにご家族、そして友人やコーヒー好きの仲間たちに飲んでもらった自家焙煎コーヒーは、周りからも美味しいと評価されるようになった。次はイベントへ出店してみようと、2015年の春、仁井田本家のイベントに初出店。
それが店舗をもたないOrdinary Coffeeの始まりだった。
「今まで味わったことのない充実感でした。焙煎を始めてからは自分がやりやすいことを一番に、すべてに自分のコントロールができる中で、ひとに喜んでもらえたのが、ものすごく楽しかったです」
出店をきっかけに、仲間内で焙煎の仕方を教え合うなど、つながりもふえていった。
今までにない充実感と楽しさがあったのはどうしてだろう、という私たちの問いに齋藤さんは少し考えた。
「これまで、いろんなことを自分で選んではこなかったのだと思います。会社員時代は外からお題を与えられることに違和感がありました。自分がコーヒー屋を選んでやると決め、ひとに喜んでもらうという目的を達成出来た、そこに充実感があったんだと思います。今、質問をされて自分でもわかったように思います」

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齋藤佑二さん。カウンターで並んで立つスタッフとの間には和やかな雰囲気がある。
休憩時に使うのは、イベント時にお手伝いに来てくれる音楽仲間で、金継ぎ師の佐藤倫さん に繕ってもらった器。

縦横無尽にはみ出していく

「人生で一番がんばりました」
それは、tette内に設置されるチャレンジショップ出店を決めるプレゼンテーションでのこと。
「イベント出店を続けて来て、これから何ができるのか模索していた時期でした。もう少し、社会との接点を持ちたいと考えていた頃に、tetteの設計に携わる方とお会いする機会とこの施設の役割、チャレンジショップの設置を知り、店を持つことを考え始めました。店をやるからには絶対に理想のかたちをつくっていきたい。本気でこのプレゼンを決めたいと思うようになっていました」
そこで、地元である群馬県にも図書館内で営業するカフェがあったため、まずは足を運んで調査を行った。
その後、与えられた時間内に収まる原稿をつくり、奥様にも協力してもらいながら何十回と練習を重ねた。
「本当に用意周到に準備をしていたので、もし自分以上のプレゼンをする人がいたら、もうそれで構わないと思うくらいに、晴れやかな気持ちでプレゼンを終えました」

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メニューには、コーヒーの他、須賀川市のこまつ果樹園のりんごジュース、白河市のさじ洋菓子店のお菓子も。

選考により出店が決まり、現在、Ordinary Coffeeには、心強いスタッフ数名が加わった。
「スタッフがいることで出来るようになったことがあり、とても助かっています。ここでは、須賀川市にどんなことをやっていきたいのか年間のアイデアを聞いてもらっています。コーヒーだけを出していても仕方がないと思っていて、せっかくのすてきな施設で縦横無尽にはみ出していくことが自分の役割だと思っています」
お店に来てくれた人同士をよく紹介してしまうという齋藤さんは、ここで偶然出会って人とつながっていくのが興味深いのだという。
「以前から狩猟に興味があったので、お話を聞かせてもらおうと実際に狩猟をされている方々にここで報告会を開いてもらいました。店の前に人の集まりができ、それを見つけた施設内のFM局スタッフが興味を持って参加してくれ、自分も楽しむことができました」
これも、スタッフがいることで出来るようになったこと。
こんなふうに月に一度、Ordinary Coffee主催のイベントの開催を考え、そしてその先を見据えている。
「個人や民間のアイデアは、行政側から求められていることでもあります。こちらも、ルールや決まり事を受け入れ、前例をつくって外に発信することで、tetteにどんなことができる場所なのかが定着すれば、より利用者を増やすことになり、回り回って、コーヒーを飲んでもらえるのだと思います」
そうなると自分もうれしいと、穏やかに、はつらつとした表情をのぞかせた。
ここで参加する側から主催する側へ。
tetteでの出店期間を終える頃、Ordinary Coffeeはこれまでに蓄えた充実感を持って、町に深く馴染んでいくだろう。

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Ordinary Coffee
須賀川市中町4−1 須賀川市民交流センター tette 1F
10:00-17:00
火曜日
あり
ordinarycoffee.mail[at]gmail.com
http://www.ordinarycoffee.net/

2019.05.27 取材
文:yanai 撮影:BUN


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