100年ふくしま。

Bar the door 宍戸直樹さん

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100-FUKUSHIMA Vol.031

Bar the door 宍戸直樹さん

Bar the door、夜7時に灯る明かり。

グラスの美しさから目を離せなかった。
その種類だけでどれくらいあるのだろうか。
整然と並ぶグラスが、ほのかな光の中で静かにかがやいている。
ここはバーのカウンター席。幾種類もの洋酒がバーテンダーの背に並ぶ。
壁の片隅に灯る明かりはボトルを利用して作られたもの。思わず手をかざしたくなる魅力的な明かりだ。
テーブル席から手が届く棚には古い本が並ぶ。
通りが見える大きな窓、落ちついた床の木目、ふたりがけのソファが置かれているドアのない小さな部屋。どこに目線を移しても心惹かれる光景が抑えた照明に浮かびあがる。
Bar the doorは今年8年目を迎えた宍戸直樹さんの店。自分のライフスタイルを大切にする人、テーブルや椅子、灰皿、グラス、そして音楽。ここにあるものと響き合える人たちの場所だ。
オフィスが立ち並ぶこの通りは、日が暮れるとひっそりと静まりかえる。
夜7時に灯るBar the doorの明かりに一日の終わりを思う。

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お酒のことを話せる人はカッコイイ。そう思った。

宍戸さんは二本松の出身。高校を卒業後、山梨の大学に進学する。目指す職業はまだ漠然としていた。ある日、幼なじみの友人に誘われて訪れた都内のバー。そこのバーテンダーが友人のお兄さんだった。
「お酒のことを話せる人はカッコイイ。そう思いました。その日をきっかけにカクテルやウィスキーに関する本を探し選び、手元に置いて読む毎日でした」
洋酒をインテリアとして部屋に飾り、少しずつ増えていくのが楽しみになった。バーを訪れ、バーテンダーの立ち振る舞いや心づかいに触れるたびにその姿勢に惹かれていく。自分もこういうふうになりたいと思うのに時間はかからなかった。迷いもなかった。
宍戸さんは、大学に通いながらバーでアルバイトを始める。面接では将来バーテンダーとして生きていきたいことを告げた。
「そのバーは今も山梨にあり、店のオーナーが私の師匠です。自分の思いを理解し、引き受けてくれた師匠に感謝しています」

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「Bar the door」への思い。

「店とお客さまとの最初の接点が入り口の扉である」
「バーに来るのが初めての方へ、入門への扉でありたい」
「宍戸という姓から『戸』の一文字」
この3つの要素が店名の基になっている。
師匠に、お客さまとの最初の接点である入り口の扉は大切にするようにと導かれた。
宍戸さんは、準備を整え午後7時ちょうどにドアの明かりを灯す。少しでも遅れるとスッキリしないと話す。
「ネクタイを締めたときにバーテンダーとしてのスイッチが入ります。洋酒が苦手な方にも美味しいと思えるものをお出ししたい。バーで過ごすという文化の入り口になれればうれしいです。ここで過ごす時間を大切にしていただきたい」
わかりやすく誰にでも読める「Bar the door」。
「door」へ行こうか、と誘いあって訪れるお客さまも多いという。

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バーテンダーの仕事、手元の世界。

「グラスを磨くのが好きです。グラスには一切、手を触れない。布でグラスを包みこむようにして拭きます。馴れてしまえば簡単ですが始めはけっこうむずかしい。やってみたいというお客さまもいらっしゃいます」
そう微笑む宍戸さん。駆け出しの頃はひたすら磨いていた。グラスを洗うことは実はその次のステップ、磨きが出来るようになってからのことだという。
バーテンダーの仕事は手元の世界だ。使い馴れた道具を傍らにカウンターに臨む。
師匠から贈られたという一本のペティナイフがある。
「刃先は細くなりましたが、だからこそ愛着がある。これからもずっと使い続けます」
手に馴染んだナイフで丸い氷を作る。左手に氷を持ちシャッと角を削り丸くしていく。宍戸さんの手がたちまち赤くなる。ほれぼれする手付き、見事な手元の世界だ。

2011.4.5 Bar the door誕生。

Bar the doorがオープンしたのは、2011年4月5日。震災後の混沌としていた時期だった。
「当初は2月にオープンの予定でしたが、施工が遅れていてあと1日か2日後に仕上がりという矢先にあの震災が起きました。幸い酒瓶や備品などは全て段ボールに入っていた状態でしたのでそれだけでも助かりました」
それまでに働いていた店に行くと床には自分が磨いていたグラスが粉々に散らばり、オーナーの涙に胸がつまった。その光景は忘れられない。
その20日後にBar the doorが開店。花輪などは飾らず静かなものだったが、楽しみにしていたお客さまも多く、ドアの明かりがうれしいと喜ばれた。
震災時に掛けられていた壁の時計は2時46分を指し、今もそこにある。

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コンディションを保つためにしていること。

「お客さまに、あの時にいただいたものと同じものを、そう言われることがあります」
一人一人のメモなどをつけているわけではない。
大切にしていることはお客さまとの会話、その記憶だ。何気ないやりとりを大事にしている。ささいなことでも胸に刻んでおく。
「もらってしまうのです」そんなふうに宍戸さんは言った。
お客さまとの会話の中で、時には悩みをもらってしまう。しかしそれは決して苦痛なことではない。
むしろ、この場所で自分という人間に心をほどいて話してくれることをありがたく受け取る。
バーテンダーは強くないと出来ない仕事だ。
宍戸さんは心身のコンディションを保つためにランニングをしている。
「小学・中学・高校と野球少年でした。小・中は陸上部とかけもちで長距離が好きでした。中学では駅伝にも出場したことがあります」
ランニングは週2〜3回ほど。20キロ走ることもある。昔の感覚が戻って楽しいと目を輝かす。
なんとお客さまとランニングチームを作ってしまった。
「10人ほどのチームでユニホームも作りました。シティマラソンにも出場します。がんばりますよ」
宍戸さんにとってバーとは「自分を表現する場所」。
この場所で出来る限り長く続けたい。それが今まで関わってくれた方々への恩返しだと思っていますと話してくれた。

8年目を迎えた日に、お祝いの花束を届けに若いご夫婦が訪れました。傍らには、ほんの小さなお子さまもいます。
お二人はこの場所で出会い、その後、縁あって結ばれました。
なんてステキなことでしょう。
お二人が帰ったあとに、いただいた花束を花器に挿す宍戸さん。その手元と佇まいは穏やかで美しく、胸をうつものがありました。
Bar the door、ここに集まる人に乾杯。未来に幸あれ。

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Bar the door
〒963-8024 郡山市朝日二丁目22-10 福和ビル1F
024-934-5554
19:00〜3:00、19:00〜1:00(日曜日・祝日)
月曜日
なし

2018.4.25取材
文:kame 写真:BUN


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