100年ふくしま。

vol.017 TARO CAFÉ 山田昌人さん

2017/08/24

017tarocafe

100-FUKUSHIMA Vol.017

TARO CAFÉ 山田昌人さん

TARO CAFÉの本棚

平日、閉店間際のTARO CAFÉは静かだ。
コーヒーを啜り、ひとりで過ごす人、ソファー席では友人たちとのおしゃべり。
窓の外には、犬の散歩をする人。
こういうところで、自分だけの時間が持てることは、大人になってよかったと思うことのひとつだ。
もうずいぶん前のことになるが、とてもセンスのいいところだから行ってみるといい、そう勧められ、初めて訪ねた時、古い木製の本棚をまじまじとのぞき込んだのを覚えている。
小説、写真集、デザインの本。手に取った雑誌には、スカンジナビア政府観光局とあった。
きっと、この場所をつくってきたものごとなのだろう、そう思った。

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いつも見ていた景色

夏の夕暮れ時、久しぶりに座った窓辺の席。
ぼんやりと眺めているとあっという間に時間が過ぎてしまう。
「いつまでも見ていて飽きない景色です。夏もいいけど、特に冬の真っ白の景色がいい」
そう教えてくれた、TARO CAFÉオーナーの山田昌人さん。
「喜多方の父の実家へ向かう途中に、この建物があり、田んぼの先には猪苗代湖。子どもの頃から見ていて、何をやるかはわからないけど、いつかここで店をやりたいと思うようになりました」
36歳の時、山田さんは、本当にそこでカフェを始めることになる。
グラフィックデザイナーとして働いていた山田さんは、ハワイにいる友人から別荘での給仕係を頼まれ、手伝うことになった。
「友人が管理する別荘で、一日3回、お客さんにお茶とお菓子をお出しするうちに、その時間が好きになっていきました」
ハワイでデザインの仕事や友人の手伝いをしていた頃、そこにも、今のTARO CAFÉと似たような景色があり、いいところだなと思ったという。
帰国後、あだたら高原スキー場でスノーボードのインストラクターをしていた時に、スキー場近くでカフェを営む知り合いの方から、猪苗代でカフェをやってみないかと勧められたのが、TARO CAFÉのはじまりだった。
場所はもちろん、子どもの頃から見ていた、いい景色の中にあったあの建物。
インテリアが好きだったこともあり、集めていた家具を店に置くことにした。
自分の本とお母様が持っていた調度品を並べ、メニューよりも、来る人が思い思いに過ごせるような空間を優先しようと思った。
「先のことを心配していては、たぶんなにもできなかった。ただ、自分の感覚は信じていたところがあります」
新しいことを始める時、不安はなかったのか尋ねると、山田さんはそう軽々と答えを返してきた。

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心地よく過ごすところに見合うもの

クロックスのサンダルに、カットオフのジーンズ。
山田さんが、スキー場のラウンジでよく見るのは、今若い子たちにどんなものが好まれているのかということ。
「たぶん手軽さなのかもしれません。でもそれは、この店に来る人たちとはまた違うものだろうと思う」
カフェが始まった当初、置いていた家具はほとんど残っていない。
人が訪れ、使われる分、当然ながらものの痛みや消耗がおきる。だから、店で使うものは、たくさんの人が使って気分のよいことを考えて選ぶ。メニューは、食材の質が良くておいしく、価格に見合うのかがむずかしい。
食事ができたらいいだろうなとも思う。けれど隣で本を読む人がいたら、と考える。
「ここでは、まわりの方にも居心地よく過ごすために、軽食とお菓子、そしてコーヒーがちょうどいい」

山田昌人さん。実はコーヒーを飲めるようになったのは20代半ばを過ぎてから。
カフェではキッチンに立つほか、ショップツールのデザインを手がける。
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店名は、ニックネームの「タロー」から。カフェを運営する田田合同会社はともに経営する越田さんとご自身の名字から。

やりたいことがあるなら

15年前、一人で始めたカフェは、今6人の社員と3人のアルバイトを抱えるまでになった。
「やりたいことがあるなら、できるだけ細かく自分の中で映像化してみることだと思う」
山田さんは、会社員時代から、店ができる風景をノートに細かく描いていた。そのノートは今もまだ手元に残っている。
「ずっと思い描いていたら、わりと簡単に進んでいったんです」
TARO CAFÉには、将来カフェを開きたいという若い人が訪ねてくる。ともに働いた後、実際に独立を果たしたスタッフもいる。
若い頃には、わからないなりにいい経験だったと思うことがある。
初めて就職したデザイン会社では受注先との関係に、頭を下げることが多々あり、それを嫌がる人もいたが、自分はそうは思わなかった。今の仕事につながっていると感じているし、当時一緒に働いていた仲間が訪ねて来てくれる。時間が経ってもいろいろな話ができるのは本当に嬉しいと顔をくしゃくしゃにした。
「ひとりなら辞められるけど、もうひとりではないから。スタッフがいて、生活がある。やりたいと思う人がここで育って、それぞれに独立していってくれたらいいなと思います」

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– – –
TARO CAFÉ
〒969-3132 福島県耶麻郡猪苗代町堅田入江704-3
0242-62-2371
11:00〜17:00(16:00 L.O.)
毎週水曜日
あり
http://taro-cafe.com/

2017.08.08 取材
文:yanai 写真:BUN(人物・4枚目)、watanabe

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