100年ふくしま。

vol.024 野沢民芸 早川美奈子さん

野沢民芸 早川美奈子さん

100-FUKUSHIMA Vol.024

野沢民芸 早川美奈子さん

起き上がりムンク

数年前、会津のカフェで不思議なものを目にした。
ずんぐりとした見覚えのあるかたちに不穏なあの顔。
2013年、スカンジナビア政府観光局が主催したノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの生誕150周年の記念イベントで制作された「起き上がりムンク」は、災難にあっても必ず美術館に戻るムンク作品と転んでも起き上がる会津の民芸品「起き上がり小法子」を重ね合わせたユーモラスな商品だ。
デザインは、西会津町で郷土玩具を作り続ける野沢民芸、絵付師の早川美奈子さん。
ムンクと起き上がり小法子を組み合わせてみたいと考えていた、会津出身のグッズ担当者から声がかかったのは、早川さんが柄の入った新しい起き上がり小法子「願い玉」を作り始めていた頃だった。
「ここならやってくれるはずとメールを頂き、驚きながらも試行錯誤で始めたところ、意外とすんなりとデザインが決まっていきました」
元となる小法子にもある下半分の帯状部分を残したくて考えたデザイン。
イベント会期の2週間で売るはずが2日で売れてしまった。
その後、野沢民芸では直接販売を行い、通常商品となった「起き上がりムンク」は、各地のミュージアムショップ、雑貨店などはもちろん、ノルウェーのムンク美術館にも置かれている。

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野沢民芸の伝統

「続けていればそれが『伝統』になっていくんです。伝統になるために続けていくことが、大切なんだと思います」
野沢民芸品製作企業組合は、こけし工場で働いていた職人たちが、工場の親方亡き後、地元の民芸品を作っていこうと今から52年前に発足。早川さんのお父様、組合理事長で作家の豊琳さんもその一人で、木を挽くことができる職人たちは、木型に和紙を貼っていく伝統的な張り子の赤べこを作り始めた。
「発足当時は会津にも何軒か工場があり、うちは後続としてスタートしました。その後、成型方法の合理化を進め、安定した品質でたくさんの商品を供給できるようになりました。おかげで今もいろんなかたちのものが生まれています。みんなで作っていて楽しく、ひととつながれることがあることで充実感を持って続いてきた会社です」
野沢民芸は、自分たちの手で、新しいやり方で新しいかたちを作り続けている会社だ。

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ひとつがたくさんつながっていく

早川さんは高校卒業後に入社、先輩方から技術を教わり、デザインは独学で身につけてきた。
「会社には自分を小さい頃から知っている人がいて和気あいあいとした人間関係、仕事にも楽しさがありました」
それでも若い頃は、お土産物屋の民芸品はお年寄りしか買わないものというイメージに抵抗があったという。
「友だちに『赤べこを作っている』と言うと驚かれ、年齢と仕事のイメージが合わなかったりする。これまでと違ったものもできるはずと思いながらも、市場は少なく、作っても取り上げてくれる問屋もお店もない、そういう業界全体の雰囲気もあり、既存の商品を作るだけでも楽しいから良しとしよう、そんなふうに自己完結させていました」
絵付けを始めて34年。手応えを感じるようになったのは、震災からだった。
震災後、このままではいけない、新しいことをして発信していこうとする人がでてきた時、早川さんもまた自分たちのものづくりを紹介し始めると、南部鉄器や漆の職人など同じ思いを持つ人たちの存在に気づき、その動きが徐々に広がりを見せていった。
「今、他の業界とのコラボレーションが自然にできています。長年思っていたことがやっとできた。これまでと違うことをやっていろんな人に見てもらおう、そんなふうに思いを同じくした人たち皆でやってきたように感じています。全く異なる業界と一緒に仕事をする度に、私たちにもこんなことができるんだと気づかされ、アイデアやノウハウを学ばせてもらいました。絵付けの体験でも、参加者の自由な発想がヒントになったりするんです」
「美奈ちゃん、新しいことをやろうよ」と会津の問屋さんが東京の展示会に、野沢民芸の商品を置いてくれたことがあった。その展示会を訪れていたインテリアショップの方の目にとまり、願い玉という商品が生まれ、店で願い玉を見た方からまた声がかかり——とひとつをきっかけに、たくさんのつながりが生まれてきた。
「今までかみ合わないと思っていた業界で私たちがものづくりをできるようになったことは、やはり震災があったから。やらせてもらえることが有り難く、だからちゃんとしたものを作ってクオリティで応えていこう、そう思いましたね」

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「見ていて、穏やかに和やかな気持ちで手にとってほしいなと思っていつも作っています」と早川美奈子さん。
国内外の小法子の絵付け体験で参加者が楽しそうに顔を描く姿に、自分の子どもの頃と一緒だと思ったと嬉しそうに話してくれた。

トムとジェリー

応接室の棚には野沢民芸の商品がずらりと並ぶ。
土台となる型の美しさ、しっくりとかたちに馴染んだデザインに見入ってしまう。
デザインの発想を伺うと思いがけない答えが返ってきた。
「昔テレビで見ていたトムとジェリーです!よくトムがドラム缶やなんかに押し込められて、そのあとパコンってその形のままで、でてきますよね。洗濯機で回されたら、平たく紙のようになってでてくるとか。あれ、すごく参考になるんですよね」
私たちは、びっくりして声を上げて笑ってしまった。
「描くモチーフをこの小法子にぎゅっと押し込んだらどうなるのか、こうしたら入るんじゃないか、なんて考えていますね。私は専門的な勉強はしていないので、そうした想像をしてみるんです」
すごくわかりやすい。想像するだけでわくわくするような「小法子に入る」デザインだ。

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デザインの絵描き歌

野沢民芸では、個人のお客様の要望があれば、1個からでも型から商品を作ることができる。
職人それぞれがしっかりとした技術とものづくりの基準を持つからだ。
「私だけでなく、誰かが描いた時にも同じように描けなければ、それはデザインではないと思っています。どこを基準に描けば同じように仕上がるのか、絵描き歌をつくらなければならないんです」
作業の流れに基準が出来たときがデザインの完成。商品の数だけ異なる流れがある。描き始めや色を入れるタイミングが決まり、自分で習得して人に伝えられた時に初めて商品になる。
「皆経験を持つ方ですから、同じ完成形になるのなら、その後の道具選びや描き順などはやりやすい方法に委ねています」
1日に制作できる数が決まれば値段が決まる。逆の場合もある。1日100個制作できて値段が決まっているなら、そのためのデザインをする。色数など工程を省いて調整することもある。常に、塗料や新しい材料を探していつも試行錯誤。
来年はシリーズの仲間を増やしていく予定だ。
「立体の型から作ってみたいものがあるので、理事長に相談しながらがんばってみようと思います。民芸品に目を向けて下さるきっかけが大切なので、今の若い方が年をとった時に、そして海外の方にもこんなものがあったんだって思ってもらえたらいいなと思います。これから自分たちが地域の中でどう役に立っていけるか、人を呼ぶなど町のアイコンになれたらと思ってます」

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野沢民芸品製作企業組合
〒969-4406 福島県耶麻郡西会津町野沢上原下乙2704-2
0241-45-3129/FAX.0241-45-4335
https://www.nozawa-mingei.com/

2017.11.09 取材 文:yanai 写真:BUN


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