100年ふくしま。

vol.018 はじまりの美術館 学芸員 大政愛さん

018はじまりの美術館
鈴木祥太「姫女苑」

100-FUKUSHIMA Vol.018

はじまりの美術館 学芸員 大政愛さん

感覚の違いは発見

社会福祉法人安積愛育園を運営母体に持ち、2014年に築約130年の酒蔵を改修して誕生した、はじまりの美術館。
4名のスタッフそれぞれが、展覧会やイベントの企画運営、受付、案内、カフェの給仕と垣根なく役割をこなす。
「来館される方との距離が近く、一緒に作品を見ながら話しができるのが嬉しいです」
学芸員の大政愛さんは、愛媛県出身の26歳。
絵を描くのが好きで、中学、高校のときは人よりうまく描けないことが制作の原動力になっていた。
「高校生の時、ひとりで絵を描くことと並行して、学校行事で誰かと一緒にものをつくるときには、もどかしさがあり、それでも手を動かしながらだと周りとの会話が弾むことに気づきました。手を動かしながらコミュニケーションをとることが面白く、アートと人に関わることに興味を持つようになりました」
茨城県で過ごした大学時代は、油絵を学びながら、病院でのアート活動に興味を持ち、大学病院での活動に携わった。
展示室にある絵本の作品について、大政さんが教えてくれた。
「この作家は、自分の気持ちを伝えるのが苦手な方なのですが、こうして表現することで自身の考えや見ているものを伝えています」
はじまりの美術館が扱う作品は、特別美術を学んできた作家のものに限らない。いわゆるプロではない人の芸術表現。
描き込まれた雄弁な言葉。意図しなかった作品の背景。
作る者、見る者どちらにもある感覚の違いを知り、新しい発見をもたらす作品が並ぶ。
「他者との感じ方の違いを知ることは、自分を知ること。それは新しい気づきであり、気づきがあることは、人生にとってとても豊かなことだと思います」

はじまりの美術館01
宮原克人「水の記憶」(部分)
はじまりの美術館
大政愛さん。現在開催中の企画展「プランツ・プラネッツ」出展作家・今村文さんの作品前で。
「猪苗代での生活は、冬の厳しさに対応した生活環境に助けられながら、文化や地域性の違いを面白がっています」

つくるひとと作品のあいだ

美術館のカフェスペース、オハコカフェには、社会福祉法人安積愛育園の利用者が制作したポストカードが並んでおり、それぞれのカードの裏には、作品が出来たその時の背景が記されている。
「安積愛育園の創作活動では、ひたすら描き続けるのではなく、周りの施設スタッフと話しながら、画材や描くモチーフが決まっていき、作品が出来てくることが多いです。そこが作品の面白さで意味があるところです。作品の面白さは、制作するひとと作品ができる過程に生まれてくるのだと思っています」
どのようなことを背景に作品が生まれたのか、一緒に作品を見ながら「作品の面白さ」を伝え、共有することができる、それがこの美術館のいいところだという。
「作品には、最低限理解の手助けになるよう文章をつけていますが、基本的には、作品を見た人の感じたことが『ひとつの正しさ』だと思っています」

はじまりの美術館
片桐功敦 + I am flower project「I am flower project」(部分)
はじまりの美術館04
左:館長の岡部兼芳さん 中央:大政愛さん 右:企画運営の関根詩織さん
出身地や関心のある分野など、それぞれに異なるバックグランドを持つスタッフと。
館内にあるオハコカフェは、町歩きの休憩に、本を読みに、建物の見学など自由に訪れ、利用することができる。

人に関わる、福島に関わる

大政さんが震災後に訪れたのは新地町だった。学生時代に参加したアートプロジェクトでの出来事を話してくれた。
「プロジェクトが終われば、自分の暮らしに帰っていく、何気ない住民の方の言葉が、とてもショックに感じました。本当に一時的な関係でしか福島に関われないのか、自分が住むぐらいじゃないと福島に関わったとは言えないんじゃないか、それなら、福島に住んでみたい。そう思うようになりました」
大政さん自身も茨城県で震災を経験し、身近なところでその後の福島の状況を見聞きしたが、なかなか福島を訪ねることができなかった。これからの福島との関わり方を考えていた頃、時期を前後して、別のプロジェクトを通して、開館の準備を進めていたはじまりの美術館館長の岡部さんと知り合った。プロジェクトの中でインターンと事務局を経験した後に、学芸員として来てもらえないかと声がかかる。
「関われるなら、ぜひ行きたいと福島に来ました」
猪苗代町に暮らし始めて二年目。美術館では、開館の準備段階から定期的に地域の方々との「寄り合い」が開催されている。
「スタッフ4人だけでは出来ることが限られますが、寄り合いのみんなが集まれば、できてしまうことがあります。地域でやりたいことを実現していくための活動として、ここで自分たちの楽しみを始めるきっかけになればと思います」
そこから、町を楽しむマップ「猪苗代あいばせマップ」が制作され、年2回開催のマルシェ「はじまるしぇ」が行われてきた。寄り合いには、議題を持たずとも、町の情報共有、カフェの展示物のメンテナンス、飼っているメダカの様子を見に来るなど、小学生から70代のメンバーが集う。
週末だけのイベントやライブ会場にもなる美術館は、地域をつくっていくはじまりの場所。
人が集まり、楽しみをつなげていく。
「私にとって、ここは日本で一番好きな美術館です。これからもっと、地域に愛される場所になってほしいと思います。美術館が続いていくことはもちろん、町の活性は、そこに暮らす方々にとって愛があるかどうかだと思っています」

はじまりの美術館05
「私たちの基本にあるのは、福祉。福祉はしあわせに関する仕事を指します。しあわせが同心円に広がっていく場所に。作品もスタッフも飾らずに、素のままで、ここから醸し出していければ」と福祉施設の支援員としての経歴を持つ館長の岡部さんより

はじまりの美術館には、アール・ブリュットと呼ばれる分野の作品が展示されています。
アール・ブリュットとは
日本語で「生(き)の芸術」。フランス人画家のジャン・デュビュッフェが、伝統や流行、教育などに左右されず、自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術のことを指し、提唱した概念。イギリスの美術史家ロジャー・カーディナルは、「アウトサイダー・アート(outsider art)」と訳し、近年、日本では「障がい者の芸術」と捉えられることもあり、福祉関係者を中心にさまざまな議論がなされている。

社会福祉法人 安積愛育園 はじまりの美術館
〒969-3122福島県耶麻郡猪苗代町新町4873
024-62-3454
10:00〜18:00
火曜日(火曜が祝日の場合、翌水曜休館)、その他、展示入れ替え期間中は休館
あり(手打ちそば「しおや蔵」共用)
http://www.hajimari-ac.com/

2017.08.28 取材 文:yanai 写真:BUN


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