100-FUKUSHIMA Vol.070
伏見屋ガラス店 三保谷泰輔さん
伏見屋ガラス店の空間
光の中できらめくガラス。
どんなほのかな光でも受けとめ穏やかにかがやくガラス。
伏見屋ガラス店。
その店には古いガラス製品がそこここに置かれている。
温かみのあるグラスやカップ、皿、花瓶、そしてランプ。
置いてあるだけで見とれるすらりとした紫の花瓶。入れるものをそのまま受けとめてくれそうな透明なグラス。手のひらにのるほどのぽってりとした二つの赤い器はちいさな生き物のようにそこにいる。
色も形も包み込んだときの手触りもそれぞれに、どれもが居心地良さそうに佇んでいる。
さあ、どうぞ手にとってみてください。
そんなガラスたちの声なき声が聴こえてくるような美しい空間だ。
「ここにあるアンティークガラス製品の半分以上は、ずっと昔に祖父が木箱にしまっておいたものです。全て未使用品で長い年月を経て今、ここにあります」
そう店主が話してくれた。
遠い昔、今は居ないその人がひとつひとつを木箱にしまう込む作業、その時の気持ちは、いかばかりだったろうか。今は知る由もないその人の心に思いを馳せる。
伏見屋ガラス店4代目店主として
三保谷泰輔さんは、現在4代目の店主として「伏見屋ガラス店」を営んでいる。この場所でガラス屋が創業されたのは実に107年前のことだ。
1914年、大正3年の創業時は、ランプなどのガラス製品を扱っていたが、時代の流れとともに父親の代からガラス窓などに使われる板ガラスの加工やその販売が主になっていく。
「私は3人兄弟の長男で、子どもの頃からプレッシャーを感じながらもこの店を継ぐことになるだろう思っていました。3代目の父は真面目な性格で回りからの信頼も厚かった。自分もそんな父の影響を受けていると思う。父は震災後に亡くなり、今は自分ひとりで切り盛りしています」
三保谷さんは、父親の下で仕事をする前にサラリーマンとして働いていたことがある。周囲にはあたりまえのこととして捉えられていた跡継ぎへの抵抗だったのかもしれないと話す。
「就職先は家業に関連している会社でした。けれどこれが性に合わない。自分は会社勤めは苦手だということに気付きました。自営業なら自由に仕事に取り組めるだろう、そんな思いから家業を継ぐことを決めました。20年ほど前のことです」
楽しいと思うことをしよう
当時、ガラス屋の仕事は楽しいとは思えなかったと三保谷さんは話す。
昔と違ってほとんどのガラス窓はメーカーの既製品。そのためにメーカーの下請け工事などを仕事として受けることになる。これまでの業態だけでは生計を立てることが難しくなっていた。廃業を考えながらも代々から築き上げ、受け継いできたものの大きさを思うと決心がつかない。
それではどうしたらいいか。
以前から三保谷さんは、仕事の合間を見つけて積極的に各地に出かけていた。時には海外へも遠征した。
古い家屋を利用してカフェとして再生しているのを見たときは、ああ、これは自分の家ではないか。この柱、天井、梁。生まれた時からずっと過ごしている自分の家にあるものと同じではないか。
「海外ボランティアに参加したこともあります。まずは自分が楽しんでそれがいつか誰かの役に立つならそれでいいと。南アフリカでは参加者が思い思いの仮装をして植林をしました。私はひょっとこ姿で赤い襦袢を羽織って楽しかったですね」
ある日、自分の中にあるシンプルな思いに気づく。
自分が楽しいと思うことをしよう。
毎日の仕事は、自分を抑えながら取り組むことが多くきゅうくつ感があった。それに対して開放される休日。それは当たり前のことかもしれない。けれど仕事とプライベートとのギャップ感があまりに大きい。
三保谷さんは、毎日の仕事の時間こそ自分らしいものにしよう。失敗を恐れて何もやらずにいるのではなく、たとえ失敗しても行動を起こそう。そう思った。
受け継いだ仕事を続けながら、それを糧として。
三保谷さんの出した答えは「今あるものを、受け継いだものを生かす」ことだった。
今ある店舗を古さを生かしながら改修することから始まり、仕事の合間にペンキを塗るなど自ら作業をすすめていった。
「天井を剥がしている時のことです。そこには頑丈な梁があり今まで隠れていた建物本来の良さを目の当たりにし驚きました。ずっとベニアでふさがれていたのでわからなかった。気づいたときには夢中になっていました。そんな時に屋根裏から木箱に入ったたくさんの古いガラス製品が見つかったのです」
美しいガラスたちが大事にしまい込んであった木の箱。まるで宝箱を開けるようだった。祖父の思いを受け継ぎここでまた生かしていこう、そう思った。
その後、三保谷さんはステンドグラスの技術を習得する。
「古い建具に使われているガラスはもう製造されていません。割れても直すことができずに処分されてしまうことも多い。それがとても残念でならず、ガラス同士を繋ぎ合わせて作るステンドグラスなら修理や加工が可能ではないかと考えました」
今、店内には三保谷さんがステンドグラスを施したリメイク家具も置かれている。
古いガラスを収集し、それを加工して販売することも考えていると話す。
これまで受け継いだ仕事を続けながらそれを糧としてさらに、ここにしかない魅力あるものを創り出していけたらと語る。
月に二度、小さなマルシェを開いています。
「私が子どもの頃、この辺りは活気のある商店街でした。よく母親からお使いを頼まれました。肉屋さんや八百屋さんに紙に書いたメモを渡すと、よく来たね、お手伝いをして偉いね〜とお店の人にほめられました。子ども心に嬉しかったですね」
実は恥ずかしがり屋の泰輔少年、緊張しながらのお使いだったと笑う。
お祭りは楽しい思い出のひとつだ。商店街の人たちがそろって準備をし当日に盛り上げる様子は心躍る風景だった。子ども御輿にも参加し、小学3年生頃からは太鼓を叩いてほんの少し大人になった気分だったと振りかえる。
三保谷さんは月に二度、小さなマルシェ「出張販売 in 伏見屋ガラス店」を開いています。
「心と身体にやさしい」をテーマに野菜やパン、ジャム、豆腐などを生産している人たちが出店されます。
「郡山近郊の生産者さんたちや、最近は白河、会津方面の方々も加わっていただいています。常連のお客さんも開くたびに増えて、近所の方々もお店に来てくださるようになりました。それはとてもうれしいことです」
かつての商店街の賑わいが少しずつでいい、ここから広がっていってくれたらどんなにいいだろう、そんな思いで今日も仕事にいそしむ三保谷さんです。
※「出張販売 in 伏見屋ガラス店」は、2021年12月25日をもって終了いたします。
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伏見屋ガラス店
https://www.fushimiya-glass.com/
〒963-8871 福島県郡山市本町一丁目7-15
024-922-1586
9:00〜18:00
※現場作業等で不定期に留守になることがあります
※毎週土曜 9:00 〜18:00 は終日オープンしています
日・月・祝日
あり
2021.10.26取材
文:kame 撮影:watanabe