郡山全集|本のある幸せ
059 Small Town Talk 黒田真市さん
Small Town Talk へようこそ。
春の日に友人の家をたずねた帰り道、初めて通る路地を車で走った。穏やかな夕暮れ時、ポツリポツリと灯がともっていく。
小さな赤い看板が目にとまった。古書店という文字がある。
店の前には椅子が置かれ、ついさっきまで誰かが腰掛けていたようなゆるやかな気配が漂う。
店内に灯るあたたかな光に誘われ、車を止めた。
戸を開けると、着心地の良さそうなジャケットを着た男の人が迎えてくれた。店主の黒田真市さんだ。
「いらっしゃいませ、こんばんは。どうぞゆっくりとご覧になってください」
黒田さんは、ちょっとうれしそうな口調で声をかけてくれた。
店内には、木製の古い本棚や机などに、詩集や随筆、写真集、イラストレーション・グラフィックデザイン・ファッション・インテリアなどの本や雑誌が思い思いの趣で置かれている。
Small Town Talkは、2009年の10月20日にオープン。まるで本好きの友人の部屋のようで、何時間でも居たいと思う居心地のいい空間だ。
本とは無縁の少年時代。
毎日暗くなるまで外で遊んでいました。
小学生の頃は、毎日、学校から帰ると暗くなるまで外で遊び回っていたという黒田さんだ。
「普通にこの辺で自由に遊べたんですよ、空き地もあったし。近所に同世代の子たちがいたので草野球はよくしましたね。友だちの中では、ひっぱっていくタイプでもなく、いちばん後でくっついていくという感じでもない、その中間ぐらいかな。本は全然読まない子どもでしたね。小さい頃の私を知っている人が今の自分がやっていることを見たら驚くでしょうね」
黒田さんは、少年のような瞳で嬉しそうに笑った。
本が自分の手元から離れる寂しさよりも
選んだ本への思いを共有できるうれしさの方が大きい。
20歳を過ぎた頃に、見て楽しむ写真集やアート、デザインの本に惹かれていく。
「女性のファッション雑誌もいいですね。もちろん服を買いたくて見るわけではなく、情報誌として興味がありました。特に当時の女性誌は多様性があり、ビジュアルとして見るにはおもしろかったですね。古い本を手に入れたいと思うようになったのは、23、4歳の頃からかな。新刊ではないので、あるところを探して買い集めるようになりました」
20代の後半頃から訪れるようになったのは、東京の中目黒にある古書店だという。何度も通うようになり、店の主人には名前や顔を覚えてもらえるようになった。
「いつもゆっくり見て下さい、という感じでしたね。店の奥にソファが置いてあってそこに座って気のすむまで好きに見させてくれました」
黒田さんはなつかしそうに話してくれた。
自分が好きで選び集めた本を売るのはどんな気持ちなのだろう。
黒田さんは、本が売れていくのはうれしいという。
「自分の手元から離れるのは、さびしい気持ちもあります。けれど選んだ本への思いを共有できるうれしさの方が大きい」
誰にとっても100%いい本ということはありえない。好きなものが合う人に喜んで手にとってもらえたら幸せだと黒田さんはいう。
良い本と出会える場所になれたら嬉しい
黒田さんは、以前から会社勤めをしながら休日などを利用し、年に数回のイベントで古本のブースを出していた。それはそれで楽しく充実した日々だったという。やがてその思いは、古書店を開きたいという願いに繋がっていく。こんなことをしていていいんだろうか、と考える日々を過ごしたという。
「何もやらないで、このままずっとどうしようかと悩みながら終わってしまうより、とにかくやってみよう、これで食べていくのは大変だけれど失敗をしてもいいから、とにかくきちんとできるよう努力しよう。そう決心をしました。最終的には自分の思い、なんですね。オープンして8ヶ月、本の数もまだまだ少ないですが、自分がいいなあと思って選び集めた本ばかりです。この空間が良い本と出会える場所になれたら嬉しいです」
黒田さんは、自分の思いをそう語ってくれた。
Small Town Talk
- 郡山市安積町荒井字荒井12
- 090-5848-1490 自宅:024-945-1579
- AM12:00〜PM19:30
- 水曜日
2010.06.08取材 文:kame 撮影:watanabe