郡山全集
直売所へ行こう|019 鈴木農場
鈴木農場:郡山市大槻町字北寺18
「タネとかかわって」鈴木光一さんのこと
鈴木農場の鈴木光一さんは、自宅のすぐ前にお店をかまえ野菜や米などを直売している。農業のかたわら種苗店も営み、タネや苗の販売を行う。
「以前、祖母の実家でタネを売っていました。私が引き継ぎ名前もそのまま伊東種苗店として10年前に始めました。10年20年先を見越して新しいコンセプトで野菜づくりをしていきたい。品種の奥深さ、おもしろさ、可能性が魅力です」昔の品種を見直し、古いものと新しいものの可能性を追い求めていきたいという。
鈴木さんは、東京農業大学を卒業している。大学では部活ばかりやっていましたと笑う。
「村の会部といって農業の現場を体験するクラブです。北海道とかの農家に何日かホームスティして実際に農作業をするのです。きついけれど楽しかったですね」鈴木さんは現在、OB会の会長を務める。この夏も学生たちが鈴木農場を訪れた。
「8月の夏休みに4人受け入れ、2週間ほど滞在していきました」
先輩として若い農業後継者の良きアドバイザーでもある。
やりたいこと、やっていること。
鈴木さんの直売所には、珍しい野菜が並ぶ。行くたびに見たことのない野菜に出会う。トマトひとつにしても、色あざやかなもの淡いもの、細長くとがっているもの小さくてまあるいもの。それぞれに名前がついており、思わず手にとり見入ってしまう。
タネを売るようになって、種苗メーカーから声がかかるようになる。すすめられる「おいしい」品種をつくってみると今までのものとは全く違うことに驚いたという。野菜の品質やおいしさを決めるのは、作り方もあるが品種そのものの特性が大きくものをいうことにあらためて気づく。
「私はつなぎ役になりたい。持っているノウハウを農家の人、お客さん、飲食店の方みんなに伝えていきたい」鈴木さんはシードアドバイザーの役目に思いをはせる。
今、注目されているのはブランド野菜への取り組み。郡山農業青年会議所の活動のひとつだ。鈴木さんもメンバーの一人として活躍している。
「毎年、ひとつづつブランド野菜を作ることを目標に2003年から取り組んでいます。今までに枝豆グリーンスイート、冬甘菜キャベツ、御前人参、インゲンささげっ子。5年目の今年は生で食べても大丈夫、佐助ナス(さすけねぇ)です。皮がやわらかくみずみずしい、甘みが強いナスですよ」
公募で決めるというネーミングも愉快なブランド野菜は生産者にも徐々に広がっている。郡山の特産品として自慢できるものを作っていきたいと語る。
「はじめから東京にではなく、美味しいから東京の知り合いに送ろう。そんな流れがオレは好きです」
モデル農場をつくりたいという鈴木さんは、農業をひとつの大きな「食」ということから見つめ考えている。
例えば御前人参。「これは人参特有の匂いが少ないのでジュースにすると最高にうまい」鈴木さんの顔がほころぶ。
例えば冬甘菜キャベツ。「若い人には丸かじりがおすすめ。そのままパリパリと食べられます」まるでスナック菓子のような手軽さだ。
「ナスをつかったカクテルはきれいですよ。ウォッカにつけるとピンクがかった紫色になります」料理人たちと試作する鈴木さんのワクワクした顔が目に見えるようだ。
楽しいことはいっぱいあります、もうつぶされそう。そう言って大きく笑う鈴木さんは、育てている野菜をどうやってとりあげていったらよいかいつも考えているという。
いろんなことをやってきて今、自分からすすんで農業を選択して勉強にはげむ若者が少しづつ増えているという。農業は目的意識を持ってやることが大切。その上で「やっていて楽しければ若い人のやりがいにつながる」自分が信じて作ったものがおいしいと評価されていくと自信につながっていく。
家族の意見がおいしさのバロメーター
「今年の夏はトマトのパスタが抜群にうまかったですね」
イタリア系トマト「シシリアンルージュ」はレストランのシェフにも人気の品種。熱を加えて塩をパラリとふっただけでおいしい。シロップ漬けやジュースにも最適のトマトだという。
鈴木家の食卓には日々、野菜を使った料理がずらりと並ぶ。新しい品種の野菜はまず家族の食卓へ登場する。家族の意見がおいしさをはかるバロメーターになる。みんなでわいわい言い合いながら食べる。子供たちが幼いころからずっと続けていることだ。
はじめて口にする野菜をかこみながらにぎやかに食事をする家族の風景が目に浮かぶようだ。
鈴木農場
- 郡山市大槻町字北寺18
- 024-951-1814
- AM9:00~PM18:00
2009.09 取材 文:kame 撮影:BUN