郡山全集|郡山の読書空間
007 珈琲亭 円
読みかけの本をかたわらに
なんて落ちつく空間だろう。
コーヒー豆のような深い色合の床。オーセンティックなテーブルと椅子。2ケ所ある出窓には真っ白なレースの布だけが下がっている。シンプルで穏やか。無駄なものはなにもない。カフェにほしいと思えるものだけがそろっている。
飾りのない落ち着いた店内や、ひとつひとつ違うアンティークなカップもコーヒーのある時間をゆるやかに過ごすためのもの。
お店がオープンしたばかりの時間、読みかけの本をかたわらにコーヒーをいただく。いつもは気ぜわしく落ち着かないこの時間をときにはこんなふうに過ごしてみるのもいい。ほんの少しの時間でいいのだ。本を読んだり、窓辺に目を向けたり。静かに流れ出る音楽はクラシック。しだいに深いチェロの音が心に広がっていく。
変わらずに変わっていく時代の中で
オーナーの佐藤良治さんは黒い蝶ネクタイとカフェエプロンが印象的な方だ。東京での珈琲修業の日々。そこで培われた「おいしいコーヒー店をやりたい」というシンプルな願いは「子供が生まれたことをきっかけに独立しよう」という決心につながっていく。
「今年で18年になります」と佐藤さん。開店当初から店内はほとんど変えていないという。よけいなもの増やさない。それは素晴らしくステキなことだ。開店した頃の思いを見失わないでイメージし続けていくことの大切さ大変さ。「常にこれでいいのかと自問自答しています」と言う。
話をしなくても信頼関係を持てるお店に
「自分のために作っていた小物をお店に置くようになりました」
「ここではコーヒーを売っているけれど、人との触れ合いを大切にしたい」ひとつひとつ言葉を考えながら静かに佐藤さんは話してくれる。
「お客さんとは直接、そんなに会話をしなくても長い年月で培われていくものがあると思います。特に話をしなくても信頼関係を持てるお店でありたいですね」
いい喫茶店にはいい緊張感がある。つかず離れずの関係を大切にしている大人が憩える空間。変わらないよさがここにはある。
日々、床を磨きテーブルを拭きカップを洗う。カウンターを清潔に保ち布巾を洗い、流しをピカピカにする。時々、窓を開け季節の風を迎え入れる。できれば片隅でそっと本も広げたい。
こんな店で働きたい。佐藤さんが営む「珈琲亭 円」はそんなことを思わせるお店だ。
珈琲亭 円
- 郡山市桑野2-20-17
- 024-932-5033
- AM10:00~PM21:00
- 毎週日曜日
- 4台
2006.09.20 取材 文:kame 撮影:BUN