100年ふくしま。

vol.090 丹野塗装 丹野秀進さん

2025/10/03
090丹野塗装 丹野秀進さん

100-FUKUSHIMA vol.090

丹野塗装 丹野秀進さん

ありがとうが、うれしい

数年前、長くお世話になった方が転職を決めた。
これまでの営業の仕事から、ご実家の仕事を継ぐことに決め、春から、職人として1から仕事を覚えていくのだという。
「腕一本の仕事だけれど、前を向いてやっていけると思うのです」
驚きと寂しさがあったものの、今までよりもすっきりとした顔に納得したことを覚えている。
それから一年後。
「こんにちはーお久しぶりです」という聞き覚えのある声が、事務所のドアから聞こえてきた。
スーツ姿から一転、真っ黒に日焼けした姿は、すっかり外仕事に馴染んだ様子だった。
「ひとつ仕事を終える度、お客さんにありがとうと言ってもらえることがこんなに嬉しいとは思わなかった」
近況を尋ねると、そんな言葉が返ってきた。
その時、この人はとてもよい春を迎えることができたのだなと思った。

また一年が過ぎた今年。
私たちは彼が就職したご実家の会社で、会長を務めるお父様のお話を伺うことになった。

090丹野塗装_刷毛
090丹野塗装_丹野秀進さん

「自営業は自分たちの代で終わろう、資金のやりくりもあり、子どもたちにはやらせない方がいいと女房とも考えていました。息子が勤め人になってよかったと思ったのですが、私の時代にはできなかったことが、息子の代ではできることや発想が変わって、仕事の進みも早いのです。今はよかったかなと思っています」
二本松市で創業44年になる有限会社丹野塗装。創業者で現在会長の丹野秀進さん。4名の一級塗装技師がいる、市内でも老舗の塗装会社です。2023年に息子の雄大さんが入社し、今年の春、代表を引き継ぎました。
「丹野さん、またよろしくお願いしますね。よく仕上がりました、ありがとうございます。頼んでよかった。お客さんにそう言われて、またそのお客さんが友人や知り合いに、丹野さんの仕事はきれいでよかったと話をしてくれる。それが、うれしくて、これは天職かもしれないと思うようになり、それから仕事が楽しくなっていきました。仕事を頼まれ、喜ばれる、それがうれしかったです」
二本松市出身の秀進さんは、市内の専門学校で塗装の技術を学びました。
「土木科と塗装科があり、高いところでいろんなことを考えて仕事をするのがいいだろうと塗装科を選びました。卒業後は家族の知り合いの塗装会社に就職しました。最初は嫌だったんです。いつも汚れるし、自分も若かったこともあり、現場ではいつも職人同士のぶつかり合いがありました」
10年近く経ったころ、親会社の業績が落ち込んだことを機に、秀進さんら社員は親方から、それぞれ2人の職人を付けるから、これからは3人ひと組みの請負制で仕事をこなしていきなさいと言い渡されました。
「当時は『野丁場』と言われる公共工事や大規模な工事の仕事をしていました。社員でそれぞれ現場ごとの仕事をすることになり、私は大手の建築会社の仙台での仕事を担当することになりました。2、3年続けた後、独立を促され暖簾分けをすることになりました。ただ、暖簾分けといっても、社名が残るわけではなく、自分の屋号を名乗り、その代わりにバックアップはするからということで独立をすることになりました」
自身の屋号となった、丹野塗装は、1982年(昭和57年)に創業しました。秀進さんは、独立後はいかに仕事をこなすかを考えていたと話します。
「あの頃は、仙台へも行っており、県内は浜通り、会津の昭和村でも仕事をしていました。二本松からの移動はいつも夜中で、よくやっていたなと今でも思っています。原発の工事にも入りました。3ヶ月間泊まり込みの仕事で、事務所内の作業でした。稼働前で放射線もないはずなのに、中に入ると壁は分厚く、長期間の光のない場所での仕事には具合が悪くなるのを感じました」
福島県内はもちろん、仙台の建築会社からの仕事も続け、忙しく働いていましたが、次第にハウスメーカーの規格住宅が増えると新築の塗装は少なくなっていきました。
「仕事が少なくなった頃、突然同業他社が閉業してしまったことがあり、その時は寂しかったですし、きつかったですね。自分たちのところでは、お付き合いのあった会社さんが建築の多くに塗装を扱っていたことと、リフォーム会社とのつながりや個人のお客さんからの依頼で仕事が続いていました」
今はリフォーム工事、特に外壁塗装を含む塗装工事の需要が増え、これからも拡大傾向にあると話します。
一般住宅では10年から15年のメンテナンスが必要であるため、リフォーム工事の会社が窓口になることも多く、リフォーム工事と合わせて、屋根や外壁の塗り替えもお願いしたいというお客様も増えています。

090丹野塗装_作業道具-1
090丹野塗装_作業道具-2
090丹野塗装_作業道具-3

いつもお客さんの立場になって
気持ちのよい仕事をする

二本松市の会社として独立をすると、秀進さんは、地元にある多くの組織に参加するようになりました。
「街で声をかけられることがよくあります。付き合いと言いながらも、地元の方々と食事やゴルフも楽しみ、それが今も続く長い付き合いになっています」
ともに働くスタッフは5名。ベテランの職人たちが揃い、これまで求人を出したことはありません。
「前の会社の時についてくれた職人が、今も在籍しています。知り合いからの紹介での入社もあります。特に社内行事があるとか、飲み会をするわけでもないのですが、彼らにはそれがいいのかもしれません」
秀進さんが、社員に教えることは、いつも手を抜かない仕事をすることだといいます。
「技術的なことを教えたことはないと思います。職人が使う道具は、今は刷毛かローラーが多いですが、ひと通り仕事をこなせるようになると、それなりに塗れるようになるものです。みなができることで自分たちが気をつけなければいけないのは、いつも手を抜かず、お客さんの立場になって心配りの仕事ができるかどうかです。同じように塗っても、その質は、見た目の美しさやこの先の耐久性といった機能にも現れてきます。『塗っただけ』で基準を満たせない仕事では元も子もありません。ただお客さんをがっかりさせるだけです。決められた予算、時間の中で、たとえ手数が増えたとしても自分たちが満足できる仕事をすることがお客さんのメリットになるような、気持ちの良い仕事をしたいといつも考えています」

090丹野塗装 丹野秀進さんと丹野雄大さん


有限会社丹野塗装
https://tannopaint.com/
二本松市沖1丁目277-9
0243-23-3357
8:00-17:00

2025.06.25 取材
文:yanai 写真:BUN

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