
100-FUKUSHIMA vol.089
株式会社エシカル郡山 星佳子さん
訪問看護を受けながら、地域のボランティアに参加する
今年の春にお会いした、日本空手道神居塾の栗田さん 、妹の加奈子さんから、お父様が週に一度訪問看護を受けながら、地域の子ども食堂に調理スタッフとして参加していることを伺った。 お父様は、郡山市の駅前でサラダの店「赤とんぼ」 を営んでいた、栗田誠一さんだ。
「普段は何もしませんが、このボランティアだけは本領を発揮するみたいです」 見せてくれたのは、こども食堂の料理人として包丁を握る、誠一さんのお写真だった。
キャベツの千切りをするその姿からは、今にも軽快な音が聴こえてきそうで、 なによりとてもいい顔をされていた。
私たちにも、それはとてもうれしいことだった。
きっかけは、加奈子さんが認知症カフェに出向いたことだったいう。
「その認知症カフェに、訪問看護の所長さんが、子ども食堂の開催のお知らせに来ていて、父を作り手として参加させてほしいと話したところ、『大歓迎!』と承諾してもらったのです」
私たちは、この子ども食堂の活動から、運営を行う株式会社エシカル郡山にお話を伺うことになった。


子ども食堂PENTA は毎月第2木曜日・第4土曜日開催、50食限定、大人400円、こども無料。
12時からエシカル郡山玄関口で販売しています。
ここで暮らしていく希望のために
訪問看護・リハビリ、子ども食堂の運営、健康経営サービスの事業を展開する株式会社エシカル郡山。
長年、看護師として働いてきた代表の星佳子さんは、地域で働き、地域で暮らしていく人の希望を叶えることをコンセプトに、2020年に起業しました。
「看護師として働いていた頃、娘に『お母さんはこういう世の中をつくったの?』と言われて、ショックを受けました。子どもは、大人になることにわくわくしていない、将来に希望がないのだと思いました。自分さえ良ければいいという社会になっていて、申し訳ないという気持ちになりました」
星さんは、起業を考え始めた頃のことをそう振り返りました。
郡山市出身の星さんは、高校卒業後に一度就職をしましたが、お祖母様が年を重ねて体調がわるくなっていく様子を見て、看護師になりたいと思いました。
「おばあちゃん子だったので、なにか手助けがしたい、お世話をしたいと思い、勉強をし直して看護学校に入学しました。看護師になってからは、急性期の病院でICUや救急に10年ほど在籍しましたが、おばあちゃんのお世話がしたいと思って看護師になったものの、それができず、自分が看護師になった意味はなんだったのだろうと思うようになりました。その間におばあちゃんが亡くなり、ここで看護師を続けるのは違うのかもしれないと気持ちを改め、その後、精神科の病院に18年務めました。そこで人の根底を見たのだと思います。真剣に生きている彼らが地域に復帰していく姿を応援したい、次第に仕事の楽しさを感じるようになりました」

星さんは、看護師として、急性期から回復期、デイサービス、デイケア、デイナイトケア、訪問看護と一通りの経験してみて、社会に出ていくときの人の苦しさや生きづらさも感じたと話します。
「精神症状を持つ方には、環境や脳の働き、さまざまな状況が要因になることがあり、一概に言うことはできないのですが、精神症状や障害があってつらい思いをしている人も、そのままの状態で社会で過ごせる世界を作らないといけないのだと、強く思いました。つらい思いがあったとしても、地域があたたかく見守ってくれたり、必要な時には助けてくれる、そんな世界をつくっていきたいと、やりがいを持っていました」
その後、星さんは、65歳以上の高齢者を対象とする部門、地域包括支援センターへ異動になります。
「包括支援センターの目的は、地域の方の介護予防や介護が必要な方のサポートを行うところです。軽度の認知症状の方もいましたが、お身体が元気な方が多く、どうしてこうした方が介護保険を使いながら生活をされているのだろう、入院ではなく、地域で生活をされているのだから、もっと外に出られたらいいのにと思いました。介護保険が必要な方も、そうでない方も、また地域とつながって高齢者が活躍する場所をつくりたいと思ったのが、事業を起こすきっかけになりました」
地域で活躍する場所をつくるPENTA(ペンタ)という名前のこの事業。私たちが「エシカル郡山」を知るきっけにもなった、こども食堂を運営し、食と人のつながりをつくり、地域の交流をサポートしています。
「この事業を進めるには収益がないと続けることができないので、なにかやらなければと思った時、自分は看護師だから、訪問看護ステーションを立ち上げれば、これから活動してもらいたい地域の高齢者の方々のケアを行うことができ、日頃から私たちがご自宅を訪問して顔を合わせていれば、改めて、こうした場所で活動をするのにも不安が少なくなると思いました。そこに行けば、知った顔がいる、というだけでもお互いにやりやすいと考え、訪問看護と訪問リハビリを始めました」
こども食堂PENTAの活動場所になる、エシカル郡山の事務所は、建物の2階にあります。長いご自宅での生活から、地域で活動をする準備として、まずは階段を登れる体づくりをしましょう、と作業療法士がご自宅を訪問して、リハビリを行いました。
「リハビリは病院でするもの、という考えの方が多い中、その人に合った身体の使い方があることを説明すると関心を持ってくださいました。普段から自分で太ももの筋トレをしているという方にも、実は足首が弱くて、転倒してしまうということがあります。専門家が、その方の身体を診ることで、その人に適した運動を行って生活の中や、この事務所まで来られるようになるなど改善を実感してもらいました」
現在、ボランティアには、訪問看護やリハビリの利用者さん、地域の方10数名、そしてエシカル郡山のスタッフが参加しています。
「おばあちゃんのお世話をしたい、力になりたいと思っていたことが、こうやって恩送りのようにできていることで、事業を起こしてよかったなと思っています」

参加する子どもたちにお金の仕組みをレクチャーする時間があります。
大人の方には体力測定を行い、ご自身の生活や体力づくりについて振り返る時間があります。
こども食堂PENTAの活動から、エシカル郡山にはスタッフも多く集まりました。現在、訪問看護ステーションとしては、大規模にあたる30名近くの専門スタッフが在籍しています。
「PENTAには、スタッフや利用者さん、そのご家族、子どもたちも参加しています。スタッフも仕事を離れた時に、『地域の人』として関われる場所を作ろうと参加しています。スタッフの子どもたちには自分のお父さん、お母さんが普段どんな仕事をしているのかを知る機会にもなっていて、自分も医療や介護の仕事に就きたいという子もいて、将来の雇用にもつながっていることを感じています。利用者さんの体調や生活が良くなれば、そこに関わってきたスタッフ自身のやりがいになり、希望が叶えられる。それらが循環して、収益にもなり、ここで働くスタッフにとって潤沢になる。そうしたビジネスで、医療保険や介護保険は必要なところに届けて、今ある人と資源で、それらがなくても社会とつながる場所を作り、ゆくゆくはそこに対価を作っていきたい。これからもっと、在宅で過ごされている方の『その人らしさ』を外へ表現していきたいと思っています」

「その人らしさ」が外に届けられました。
医療や介護の前に、働きながら、自分を大切にするということ
「『もっと若い時からリハビリをやっていたら、今の俺の足はまだ元気だったんじゃないかな。会社の福利厚生にリハビリがあったら、俺はやっていたな』。訪問看護の利用者さんの言葉をヒントに頂いて、3年前からReSTAR(リスター)という健康経営事業が始まりました」
エシカル郡山の経営を支えるもうひとつの事業、ReSTARは、作業療法士による企業向けの健康経営支援サービスです。今の生活をよりよく、そして将来の介護予防につなげるサービスです。導入企業の分野は、建設業からオフィスワーカーまで多岐に渡ります。
「健康のために会社全体でラジオ体操をしようというのは、業種によっては効果的とは限りません。専門家を入れることで社員ひとりひとりの身体のつくりを診て、お仕事中にできるその方に適したリフレッシュの仕方、作業や運動を提案しています」
ReSTARでは、このサービスを導入する企業の社員ひとりひとりのカルテが作られています。その方の身体のつくりや足を組んで座るなどの姿勢や動作の癖、体力測定を行い、さらに日常の悩みや困りごとのヒアリングが行われています。
「社会に出てから、自分を大切にするということをしていない方はたくさんいます。自分の声を聞けていないというのが、正しいかもしれません。まわりに常にさまざまな多くの情報があることで、批判が多く、焦りだけを募らせてしまうことがあります。私たちが入ることで、お仕事をしながら、ご自身の仕事の仕方や生活を振り返る時間をつくり、負担を少なく作業効率を上げること、そして健康的な生活をできるだけ長く維持できるようにしてほしいと思います」
たとえ今、病気や怪我をしたとしても、つらい症状や障害があっても、あなたはあなたのままでいいのですと、星さんは真っ直ぐに言いました。適切な休息はもちろん、今、労わりながら働くことは、将来、ここで健やかに暮らし続けることにつながります。

学校に作業療法室を
見守り、助け合う子どもたちの小さな社会
エシカル郡山のこれからについて、星さんは子どもたちの学校生活に目を向けています。
「できれば小学校に作業療法室をつくりたいと考えています。今、思春期外来がものすごく増えていて、3年待ちと言われています。その理由には、3歳時健診、入学時健診で保健師さんたちによる発達障害か否か、またはグレーゾーンという診断があるのですが、受診だけでは、その子の特徴なのか症状なのかがわかりにくいため、グレーゾーンにあてはまる子は、思春期外来に送られています。3年待って、病院まで足を運ぶことはハードルが高いと思います。診断を待つ間、入学時健診を通過して小学校に入ったあと、学校の先生方も判断ができず、その子をクラスに馴染めない特別な子、落ち着きがない子、暴力をふるってしまうなど、親御さんに伝えることになります。先生に言われたら、親御さんも自分の子は病気なのかと、不安になりますね。その子の行動が、なにから起こっているものなのかを作業療法士が診て、聞き出すことで手伝えないかと思っています。学校生活の中で作業療法士の視点から、その要因となる部分を解消するために、その子に体の動かし方を教えたり、一緒にやってみることで、集団で生活するときに適した活動のあり方をつくって見せることができます。作業療法室でそれができたら、先生も授業がしやすく、親御さんも不安を抱えず、本人も安心して学校生活を送ることができると思うのです」
外来受診まで3年をかけてしまうと、特に小学校、中学校の間で成績の差にも大きく影響してしまうといいます。ご家族がその子の特徴や症状を受け入れられない場合には、その外来を受診することさえ、とても難しくなってしまいます。
「たとえご家族が納得できなくても、学校でその子の生活を診て、見守ることができたら、みんなが安心できるのではないでしょうか」
学校に通う子ども本人にも、自分で生活することを身につける機会になり、まわりの子どもたちにとってもまた、あたたかく見守り、必要な時に助け合うという、エシカル郡山が目指す小さな社会がそこにできていくはずです。

普段から多くの情報にさらされる中で、子どもたちや働く人にも、
必要な情報は、本を読んで、言葉を知って、選んでほしいと話されます。
「『自分なんてどうなってもいい』。そう言う人がいたら、そう言わせるような世の中をやっぱり自分たちが作ったのだと思います。ただ、人は命が尽きることは誰しもわかっていることです。そこで、希望で満たされた生きた証のように、どうやって生きていくのか、悔いのない最期を送りたい、やりきったと自分で思えるようにしたいと、やはり思っています。あなたはあなたのままでいい、その存在がもう活躍しているのだから。そうした世界を作っていかないと。自分がこれまでやってきた分野の、訪問看護や訪問リハビリが生活の基盤として広がっていれば、地域で安心して暮らしていける、そう思っています」
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2025.06.02 取材
文:yanai 写真:BUN