100年ふくしま。

vol.045 口笛奏者 柴田晶子さん

2019/07/25

vol.045 口笛奏者 柴田晶子さん

100-FUKUSHIMA Vol.045

口笛奏者 柴田晶子さん

口笛を吹くとき

「口笛奏者」。
なんて胸に響く言葉だろう。
凜々しくすがすがしく、吹きわたる風のように心に届く。
日々の生活の中で、ふいに口笛を吹いているときがある。
何か特別なことが起きたわけではないけれど、ちょっとうれしいという時に吹いてしまうのが口笛だろうか。
口笛は、とりとめのない日常にささやかな変化を与え、気持ちを軽やかにさせてくれる。
肩の力を抜いて、口笛を吹くような心持ちで過ごせたらと思う。

vol.045 口笛奏者 柴田晶子さん

音楽としての口笛を

口笛を演奏する柴田晶子さんは美しい。
ステージの上で音を奏でる晶子さんには惹きつけられるものがある。
目を閉じ、自分の音に集中し心と身体全体で表現していくその姿から目が離せない。
「人の身体から出る音色には、他の楽器にはない魅力を感じます。口笛は感情が乗りやすく、メロディーを知っていればすぐに演奏できるところもいいですね」
手回しオルゴールやマリオネットを傍らに詩情あふれる世界を創り出す。
3オクターブという広い音域でヴァイオリンやフルートのために書かれた作品も演奏する。
晶子さんは、ゆっくりでいい、音楽としての口笛を広めていきたいと話す。

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気がつけばいつも口笛を吹いていた子ども時代

晶子さんは秋田市の出身で、小・中・高校生の頃は、さいたま市に住んでいた。兄と姉の3人兄弟の末っ子で、ひとりでいるのが好きなおとなしい子どもだった。物語を作って空想の中で遊んでいたと話す。
「小さい頃から気がつけば鼻歌のように口笛ばかり吹いていました。小さいながら高い音も出せて親からは、ピーピーうるさい、なんて言われたりしてましたね」
音楽は好きだった。学生時代、部活の吹奏楽部でチューバを演奏していたこともある。
「わりと身体が大きくて、それだけの理由でチューバを薦められたような。それでも音楽のリズムを支える重要な楽器なので、今思えばやっていて良かったと思います」
晶子さんは、スラリとしたアスリートのようなすがすがしい印象がある。
スポーツが好きで、北海道大学に進学してからは、サイクリング部に所属。自然豊かな大地を口笛を吹きながら自転車で駆けぬける晶子さんの姿が目に浮かぶようだ。

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「自分が楽しいと思うことをやりなさい」
母の言葉に背中を押されて

大学を卒業後、晶子さんは東京の海運業の仕事に就く。コンテナ船など大きな荷物を運ぶ船の会社で、国内外へ運航する船の手配などをしていた。
数年が経った頃、晶子さんは仕事への悩みを抱えながら過ごす日々を送っていた。
ある日、口笛の世界大会で日本人女性が優勝したという新聞記事を見た母親から連絡があった。
「母は、小さい時からよく吹いていたよね、と知らせてくれました。口笛を好きだった私を思い出したのだと思います。その時に口笛の世界大会があること、女性の口笛奏者がいることを知り、驚いたのを覚えています」
晶子さんは、すぐにその女性の演奏を聴きに行った。口笛とは思えない澄んだ音色に惹きこまれ、自分もあんなふうに吹きたいと思った。
そして毎週末、土曜日に開かれる口笛教室に通うようになる。
「通い始めた頃は土曜日だけが心の拠りどころでした。教室では、わりとすんなり高い音を出せたので、だんだん練習そのものが楽しくなっていきました」
自身の口笛に手応えを感じていく中、翌年に口笛の世界大会が日本で開催されることを知る。

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世界大会に入賞すれば、仕事としてやっていけるかもしれない。
そう考えた晶子さんは、世界大会に出場することを目標とし、猛特訓に挑んだ。
一曲を完璧に吹きこむことを繰り返し、音楽としての口笛を目指した。
「特にクラシックは音楽そのものを理解することから始まり、とことん吹きこみました」
結果は総合2位入賞。晶子さんは、その翌年にアメリカで開かれた大会にも挑戦し、総合3位の入賞を果たす。
どちらも会社には内緒の出場だったが、世界大会で2度入賞したことは大きな自信となる。
同時に晶子さんは迷っていた。
さあここからが大事だ、これからどう生きていこう。
このまま、口笛を吹く人生に変えてもいいだろうか。
迷ったときには、自分にとって大切な方を選択しなさいという母親の教えも胸の中にあった。
両親には反対された。
追い込まれる晶子さんに、やがて母親が声をかけ背中を押してくれた。
「あなたが楽しいと思うことをやりなさい」
晶子さん、26歳のときだった。

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口笛教室にて。

晶子さんは、各地で演奏会を重ねながら、郡山市など県内外4カ所で口笛教室を開いています。
レッスンは、顔と身体全体のストレッチからスタートします。
晶子先生の合図で、身体をゆっくりと動かし次に口元から頬にかけてふくらませたり、すぼめたり。身体と顔をほぐしていきます。
全身があたたまってきたところで、ピアノの音階に合わせて音出しを始めます。
この日の参加者は女性6人、男性1人。みなさん自分のペースで音を出していきます。
晶子先生は、ひとりひとりの口の形を見ながら的確なアドバイスをします。その言葉がけがあたたかく、それにより生徒さんたちが自身の音に集中していくのがわかります。
口笛は、次の3つのことを心にとめて、と晶子先生。

ひとつ、唇をあまり突き出さない。
ひとつ、唇で丸くちいさな穴をつくり、横に広がらないようにする。
ひとつ、音階は口の中の空間の広さで変えていく。

口笛は、口をとがらせて吹くイメージがありますが、口の形が大事なのですね。
「口笛は美容と健康にもいいのですよ。口笛を吹くことで、自然に頬や顎の筋肉が鍛えられていきます」
何よりも口笛で音楽を楽しむことが一番の健康法ですね。
レッスンの最後に、みんなで「ユー・アー・マイ・サンシャイン」を演奏しながらそう感じたひとときでした。

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柴田晶子
2008年 国際口笛コンクール(日本)成人女性の部、総合2位
2009年 国際口笛コンクール(アメリカ)成人女性の部、総合3位
2010年 国際口笛コンクール(中国)成人女性の部、総合優勝
2010年 くちぶえフェスタ「パカラマ!」最優秀賞受賞
2012年 国際口笛コンクール(アメリカ)成人女性の部、総合優勝
2012年 埼玉県川口市より芸術奨励賞受賞
2014年 国際口笛コンクール(日本)審査員、Entertainer of The Year受賞

2019.05.21取材
文:kame 撮影:BUN

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