100-FUKUSHIMA Vol.00vol.047
ちっちゃな美術館 こはらだ日和 古川定和さん、麗子さん
ちっちゃな美術館「こはらだ日和」
旧国道沿い、郡山市小原田にある、ちっちゃな美術館 こはらだ日和。
木の香りと床の温かい感触が足裏に心地いい。展示室までの短い廊下、壁に掛けられた小さな絵も思わずのぞきこみながら、奥の企画展示室へ行くと、正面の大きな窓から手入れが行き届いた庭の花々が眺められます。
「訪れる方には、作品はもちろん季節の庭も楽しんでほしいですね」
館長の古川定和さんと奥様の麗子さんご夫妻。
定和さんのご両親が住んでいた土地に建てられたこの美術館には、定和さんが長年収集してきた掛軸を中心とした近現代美術などの作品が展示されています。
こはらだ日和のはじまり
定和さんの先祖は江戸時代に越後(現在の新潟県)から、郡山市小原田に移住し、農家としてその地域に田畑を持っていました。定和さんのご両親が住み、定和さんご自身も暮らした家には、蔵があり、農機具や家具、当時は冠婚葬祭を全て家で行っていたため、塗りのお膳など、さまざまな生活用品が収められていました。
定和さんは、その蔵で古い掛け軸を見つけました。
「子どもの頃、たまたま蔵で遊んでいた時、掛け軸があるのを見つけました。いい絵だなと思い、これは我が家に古くから伝えられてきたものだろうと懐かしさと親しみを感じて、美術作品に興味を持つようになりました。大人になって、収集が趣味になり、好きなものには手間暇をかけ、それが楽しいと感じています」
美術展や骨董店、画廊に足を運び、手頃で好きなものを少しずつ集めてきたという定和さん。
現在、数百本の軸を持つまでになりました。
「仕事の関係で会津若松市で暮らしていたことがあり、地元の骨董店に薦められて買い求めていましたね。肉筆の絵が好きなこともあり、地元の作家である酒井三良のものを主に集めていました」
軸ものを含む日本画の魅力は、線の美しさだといいます。
「髪の毛の一本一本が、細い線で描かれ、緊張感のある繊細なところがいいと思っています」
定和さんが、いつかは小さな美術館を持ちたいと口にしていたことを、麗子さんは覚えていました。
「初めは、自分ひとりでゆっくり眺めたいという小さな夢だったと思います。まだ早いと10年20年と言ってきて、両親が住んでいた土地が遺され、主人もこれまで一所懸命働いてきたので、この先は好きなことやって過ごしてもらうのがいいなと思いました」
もっとこじんまりとした建物を想像していたものの、担当の設計士が心血を注いで立派なものにしてくれたと麗子さんはいいます。
永く使い続けられるものを
「どうせやるなら、永く使い続けられるものを建てた方がいい。加えて、展示スペースだけでなく、地域の人に来て頂く多目的に使えるスペースがあることが、これからの小原田にとっても絶対にいいだろうと考えました」
そう話すのは、定和さんの息子さんでトラスホーム株式会社、代表の古川広毅さん。
建物の材木選びを提案したのは、天栄村の株式会社ツネマツ。福島県産の杉が使用され、調湿機能や抗菌・防腐作用が高く、美術品の保管にもとても適しています。その芳香には人をリラックスさせる効果も。設計は環境に配慮した住宅をつくる合同会社地球と家族を考える会が行いました。
開館後、小原田の町にこうした美術館ができ、美術品を身近に見ることができるのがうれしい、という地域の方の声が古川さんのもとに届けられています。
「建物の力もあるかもしれませんが、今までなら和室の鴨居にかけて眺めていたものが、ここに一点一点、与えられた場所に展示されると、いっそう輝きを増すように思えます。素人ながらもそんなことを感じられるようになりました」
作品も喜んでいるんじゃないかしら、麗子さんはそう朗らかに話されました。
この日は、翌日から始まる秋の展示会のため作品の入替が行われたばかりでした。
数もまとまってきたところで、展示をする場所ができたことは作品をきちんと保管することにもつながり、建物とともに古川さんご夫妻は次の代にきちんと伝えるための準備を整えることができたといいます。
「本当にいろんな方がお見えになっていて、作家や作品に詳しい方、実際に書や水墨画をやっている方とお話をさせていただくと、学ぶことが本当に多いと感じています。絵の見方に正解があるわけではありませんから、見たときに『いいな』と感じることが良いと思います。私もプロではなく良いと感じたものを集めてきました。心に訴えるものがあることが大切だと思います」
絵を飾る、花を育てる、そのかたちをつくる
できるだけ小さくかたちにしていこう、そう初めは思っていた定和さんでしたが、麗子さん、広毅さんも参加して美術館がかたちになっていくとき、美術館は地域にとって大きな役割を持つことになりました。
「壁面のほとんどが展示スペースになるため、部屋の真ん中が大きく空き、ここを何かに使いたいと思いました。今、その空間を利用してヨガのクラスやコンサートを計画しています。ここが主人の夢の展示館だとすると、花が好きだったので小さなガーデンが私の夢でした。夢というとおおげさかもしれませんが、夫婦で好きなものを実現したかたちです」
ご家族の好きなもの、定和さんは作品を眺められる展示館、麗子さんは小さなガーデン、広毅さんは建築の勉強をしていたこともあり、それぞれの思いが地域にもうれしいかたちになりました。
「これからは両親が老後を豊かに、自分のためにお金と時間を費やしてほしいと思いました。だから環境にもよい設備を整えました。これまで家族で会社を営んできたので、両親はそこから少しずつ抜けて、自分の時間を持つことへ。私は引き継いだ大家業として新しいかたちを模索しながら管理をしていく、そうした世代交代の分岐点につながっていると思います」
そして、この地域、小原田がどんな里であったのか、その後、どのように町を築いてきたのか、その歴史を伝えていくこともこの美術館の役割だといいます。
ご家族の好きなこと、得意なことでかたちづくられた小さな美術館は、町の人たちの憩いと地域の愛着につながっています。
奥州街道脇に立つこはらだ日和の看板には、以下のような地域の歴史と美術館の紹介が記されています。
○小原田宿について
江戸時代、奥州街道(旧国道)沿いの小原田宿には[枡形(ますがた)]が設けられていました。枡形とは、直進できないように道路を左、または右に直角に曲げ、土塁や柵で塀を築いた施設です。その形が四角い枡にに似ていることから「枡形」と称しています。
枡形には番人を置いて通行人を監視していました。現在でも道路が曲がっており(美術館向かい、小原田郵便局のところ)、枡形の面影を伝えています。
また、小原田には高札場(こうさつば)と一里塚(いちりづか)が築かれていました。高札場は徳川幕府や二本松藩の触書(命令書)を、人目につきやすい場所に簡潔な文章にして掲げておくところです。高札場は、枡形の中央に設けられました。
○こはらだ美術館
古川家は江戸時代に越後(現在の新潟県)からこの地に移住しました。
この美術館は、当主 古川定和が蒐集した掛け軸を中心に、近・現代の美術作品を展示しています。
ぜひ、地域の皆様に親しんでいただき、これから未来を拓く子どもたちにも日本の伝統美に触れて欲しいとの想いで、令和元年六月、開設しました。
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ちっちゃな美術館 こはらだ日和
〒963-8835 郡山市小原田四丁目13-25
024-973-7615
10:00 – 16:00
月曜・火曜
*その他、年末年始、GW・お盆期間中などの開館日はお電話でお問い合わせ下さい。
正面3台、裏側8台
https://koharada.jp/
2019.09.10取材
文:yanai 写真:BUN