郡山全集|音楽は、たのしい
038 向山加津子さん
息子が音楽をしているのは、うれしい
現在、フランス在住のピアニストである向山良作さんのお母さんを訪ねた。
「息子が音楽をしているのは、うれしいですね」
小柄ですらりとした向山加津子さんは、秋の穏やかな木漏れ日の中でしみじみと話してくれた。
「私の父、良作のおじいちゃんですが、自分の子どもたちの情操教育として音楽がいつも身の回りにありました」
加津子さんは5人兄弟、ひとつ上のお姉さんがピアノを本格的に習っていた。ご自身もピアノを習っていたけれど「姉ほどではなかったですね」と微笑む。
加津子さんのお姉さんは、郡山ピアノ教室主宰で現在もピアノを教えている尾上禎子さん。良作さんの伯母さんにあたる。
「そうですねえ、良作が生まれた頃から、姉の弾くピアノはずっと身近にありましたね。ハイハイしながらまとわりついていたように記憶しています。3歳の頃に自分からピアノを習いたいと言いましたね」
姉は、ものごとにこだわらない大らかな女性、気持の切り替えを自由にできる人、と加津子さんは話す。
伯母さんにピアノを師事し、通っていた幼稚園の修道院のシスターに影響を受ける。
「シスターはお年を召した方で、良作にフランス語を教えてくれました。小さいながら興味を持ってどんどん憶えていくのをあたたかく見守ってくださいました」
息子とフランスの最初の出会いですねと加津子さんはいう。
良作さんは、17年ほど前にフランスへ渡る。その後、知り合いの友人だったチェリストの榊原彩さんと出会い結婚。二人でそれぞれ音楽活動をしている。
遠くはなれている二人への想い
「自分のやりたいことをやっている人は少ない。フランスでの生活は決して豊かではないと思います。けれどお互いの音楽を尊重し合って仲むつまじく暮らしている二人を見るとああこれでいいんだとしあわせな思いになりますね」
良作さんと彩さんは、お料理なども好きで、二人でよく作るという。
「彩さんは、手芸も上手で、良作のちょっとしたものなど何でも手作りするんですよ」
微笑みながら話す加津子さん。
母親のやさしい眼差しは遠く離れている二人に注がれる。
親としてやれることを
良作さんと彩さんは、2001年から年に一度、郡山市でコンサートを開いている。
「息子からピアノとチェロのデュオリサイタルをやりたいとうちあけられました」
年に一度だけでも定期的にリサイタルを開き、郡山の人々に自分たちの演奏を聴いてもらいたいという良作さんの思いは熱く、加津子さんの心を動かした。現在はご主人の向山正英さんと二人で後援会を立ち上げ、若い二人をバックアップする日々。「ピアノ&チェロ デュオリサイタル」は今年の夏で8回目を迎えた。
優しい性格が目に浮かぶような演奏だと聴きに来た方に言われる。
「息子は、いつも精神的に安定している。声を荒げたり落ちつきが無くなったりした姿は見たことがありません。幼稚園の時からの息子を知っている方は大人になった良作の演奏を聴くのを楽しみにしてくれているようで嬉しい。ありがたいことです」
自分たちは親としてやれることをやるだけですと静かに話す加津子さんだ。
2008.08.24取材 文:kame 撮影:BUN