郡山全集|郡山のアーティスト
009 山嵜大路(やまざきたいじ)
Taiji Yamazaki
バンド「宮田」ボーカル 郡山市出身、1984年10月生まれ
バンドでの自分と弾き語りの自分
バンド名は「宮田」。パーカッション、ドラム、エレキ、ベース、サックス、トランペットの総勢6人のメンバーだ。ファンク系やテンポのいい曲が多く、作詞作曲は山嵜とメンバーの一人が担当し、全員でアレンジをする。半年前に知り合いバンドを結成し、数ヶ月後には初ライブを行い、CDも制作した。
オハヨウからはじまる一日
太陽にもあいさつをしよう
少し背伸びをして歩き出す
空はどこまでも続いてゆく
船の霧笛や、海鳥の鳴き声などを効果的に取り入れながら始まるこの曲は「one day」。都会的なセンスあるリズムでスケールの広い演奏が魅力だ。
空気感のある詞(ことば)は、山嵜の存在感のある声質と抜群のリズム感で聞くものを魅了する。
もうひとつの顔、ギターひとつで弾き語りをする山嵜は穏やかな空気をまとう。柔らかな詞と安定した歌声、ゆるやかなメロディー。言葉のひびきを大切にしながら、自分の思いをていねいに歌う。
ある朝、天から曲が降りてきた
「ポールマッカートニーじゃないけれど」と山嵜が話す。
「あれは高校生の時です。朝起きたらメロディーを口ずさんでいました。曲が降りてくるってことあるんですね。感激しました」静かで優しい曲だったという。その頃、漢文の授業の中で「折楊柳(せつようりゅう)」を知る。人生の寂しさや悲しみ、切なさをうたったものだ。山嵜はその曲名を「折楊柳」とし、ひとつの楽曲として仕上げる。その朝の衝撃的で不思議な体験が自分を音楽への道を歩かせるきっかけになったという。
山嵜の楽曲に「キャンディキャンディ」というのがある。
戦争の悲惨さを描いたアニメ「ホタルの墓」の中でのワンシーンをモチーフにしている。主人公の妹、節子がドロップの缶に水を入れてもらい「ドロップドロップ」と缶を揺すりながら嬉しそうにピョンピョンと跳び回る印象的なシーンだ。
「父親が長崎出身なんです。おじいちゃんが原爆の被爆者で父は被爆者二世。自分は被爆者三世です」小さい頃から祖父に戦争の話を聞かされた。この歌は反戦歌ではない。けれど今の日本の平和をありがたいと思う気持ち、平和な時代への感謝の思いがさりげなく込められている。
大切な友だちとの出会い、一生の宝物
高校を卒業して東京の音楽専門学校へ行った山嵜。そこで得たものは「友だち、人との関わり」だという。「学校は途中で辞めましたが、そこで出会った友だちは一生の宝物です」行き詰まった時、迷った時に支えてくれた友だち。そして何よりも「自分には無いものを持っている友だちは自分に新しい世界を見せてくれる」と言う。
山嵜にはギターを触らないで過ごした時期がある。それは当時、側にいた女性のためと覚悟をしていたはずだった。ある日、彼は夢をみた。夢の中の自分には手が無くなっていた。
「音楽がないとオレは駄目になってしまう」ことを思い知る。その時に出会った人に言われた。「まだ若いのだから、人のために生きるのではなく自分のために生きなさい」と。人は自分らしく生きることが大切。自分の夢を無理に押さえ込む生き方は相手も自分も不幸にしてしまう。
「いい友人がいるから今の自分がいる」という山嵜。そういう彼自身も笑顔がチャーミングな味のある若者だ。
もし自由な時間が持てたら、沖縄に行きたいという。
「青い海を見ながら、三線(さんしん)を弾いていたいです。泡盛を飲みながらのんびりとね」と人なつこい笑顔を見せた。
2006.01.15 取材 文:kame 撮影:BUN