焚き火の思い出、暮れゆく日々
子どもの頃、秋も深まると庭のある家では「焚き火」をする光景が見られました。
落ち葉を焚く匂いは子どもながらもどこかなつかしく、学校帰りなど吸い寄せられるように火の前に行ったものです。
大抵、その家のおじいさんやおばあさんが火の周りにいて集まってくる子どもたちをニコニコと迎えてくれました。
かきねのかきねのまがりかど
たきびだたきびだおちばたき
あたろうかあたろうよ
きたかぜぴいぷうふいている
おなじみの歌ですが、あらためて調べてみると3番まであったのですね。これまで3番は歌うことはなく初めて知りました。最後の一行が新鮮です。
こがらしこがらしさむいみち
たきびだたきびだおちばたき
あたろうかあたろうよ
そうだんしながらあるいてる
あの頃、燃やしているのは庭に積もる落ち葉のみ。紙などのゴミのようなものはなかったように記憶しています。
今はめったに目にすることもなくなりましたが、山合いにある「蓮笑庵」を訪ねたとき、幸運なことに焚き火を囲む機会がありました。
ぱちぱちと燃える炎に、わぁっと声が出て吸い寄せられるように手をかざしていました。
胸にわきあがる遠い日の記憶、つつまれる安心感。揺れる炎を前にして人の心はなんと解放されることだろう。
もうすぐ2015年も暮れようとしています。
今年一年、無事に過ごせることに感謝、2016年も良い出会いがありますように。
2015/12/28
カフェひらながにて その2
ときどき、ホットケーキが食べたくなります。
それはデコレーションされたパンケーキではなく、ごくシンプルなもの。焼きたてのケーキにはバターがのり、メープルシロップをかけながらいただく昔ながらのものです。
この夏に、どきどきするホットケーキに出合いました。
「カフェひらなが」のホットケーキには力がある。
思わず目を見張るほどです。
焼きたてが二枚重ねてあるだけの姿には迫力さえ感じます。
かりりと焼けた表面にナイフを入れると、香ばしい匂いが漂います。
さあいただきましょう。
バターとシロップ、淡いオレンジ色のジャムをつけながらひたすらに食べ進み、あっという間にしあわせな時間が過ぎていきました。
ひと息ついてメニューを見ると「おかわりホットケーキ」なるものが。
なんとホットケーキをおかわりできるらしい。
しあわせな時間をもう一度、味わえる。それはなんて贅沢、素敵なこと。
今度、いつ行こう。
2015/11/24
カフェひらながにて その1
夏の終わりに飯坂温泉街を歩いてきました。
どこかひと休みが出来る場所はないか探していると、小さな看板が目にとまりました。
「カフェひらなが」。
おー、あったぞ。カフェだ。
知らない町で出合うお店は、なにやら謎めいてドキドキします。
お店は温泉街の古い建物の二階。階段をゆっくりと昇ります。
ドアを開けると、ほんの小さなスペースに古い椅子やテーブルが思い思いの表情で置かれています。
狭いけれどそれが何故か落ち着く、そうだ、友だちの部屋を訪ねたような感覚。
さて、一息つきましょうか。
メニューとお水、そしておしぼり。そのおしぼりに目がとまりました。
何気なく置かれたそれはただのおしぼりではなく、清潔なお手ふきという印象でした。
日本手ぬぐいは赤い糸で縁取られ、丁寧にたたまれて陶器のちいさなお皿に置かれています。
見とれていると店主が微笑みながらこんなふうに言われました。
「手ぬぐいをたくさんいただいたので、ちいさめにして縫ってみました。温泉街ならではのおもてなしかな、と思いまして」
そうだったのですね。
何よりのおもてなしだと思います。
「ひらなが」とは、お互いパートナーでもある平野さんと永井さんから名付けたとのこと。お二人は、よく「ひらがな」と間違えられますと微笑まれました。
2015/10/26
biji、居心地のいい場所
芽を出して、やがてつぼみが花を咲かせるように、使いながら少しずつ育てていけるように。
店主はそんな思いを込めて種という名前のお店を始めたといいます。
bijiは、雑貨や古い家具を扱うセレクトショップ。ほんの小さい人のものや女性のための着心地のいい洋服なども置いてあります。
あたたかみのある古い本棚、テーブル、椅子、置台、鏡。
それらのものが清潔な空間に置かれています。
店内には静かな音楽が流れ、居心地のいい場所です。
お客さまは誰もがゆったりと動き、小さな子どもたちも大人に習い、にこにこと静かに見て歩くのでした。
以前は寄宿舎として使われていた古い建物を改造したというこの素敵なお店は、福島市にあります。
2015/09/23
シンバ、夏の出会い
この夏は、南会津路を旅しました。
「会津ジイゴ坂学舎」という名の建物は、南会津の下郷町にあります。ジイゴ坂とは地名だそうで、なんとも不思議な響きに心惹かれます。
2005年に廃校となっていた下郷町落合小学校(分校)が、小さなミュージアム「会津ジイゴ坂学舎」として蘇ったのは2014年の5月、約一年前の春のことだそうです。
ドキュメンタリー映画の上映や写真展、ワークショップなどが行われ、カフェやショップも併設され魅力ある空間です。
学舎は、平屋の趣のある美しい木造校舎で遠くから眺める風景は懐かしく心打たれるものがあります。
訪れたのは雨上がりの夕方、広い校庭が駐車場です。
車を止め、正面玄関を眺めると白い大きな暖簾の下にイヌが座っていました。
前方やや斜め上の方向に顔を向けたまま動きません。
あれ?置物?
目をそらすことなく車から降りドアをしめると耳がピクリと動きました。
あっ、動いた。
本物のイヌだ。
とたんに嬉しくなり、持っていたカメラを遠くから構えました。
イヌの視線はまだ前方やや斜め上の方向です。
近づくとおもむろに動き出し、おとなしく触れさせてくれました。
その目のなんてやさしいこと。そのまま暖簾の向こうへ歩いては振り返り、その仕草は「さあこちらへどうぞ」と言っているようでした。
イヌの名は「シンバ」。6歳、女の子。
やさしくフレンドリー。ちょっと苦手なものは小さなこども、うんと苦手なものは雷の音。
学舎の人気者、シンバ。
この夏一番の出会いです。
2015/08/27
「食堂つきとおひさま」お昼ごはん
喜多方市にある「食堂つきとおひさま」でお昼ごはんをいただきました。
時間は11時30分を少しまわったところ。
もう少し早かったらブランチメニューからのお料理をいただけたかもしれない。
数ヶ月前に営業時間が変更して朝9時から夕方の5時までに。以前は12時から21時まででしたが、夜の部がなくなり朝の時間になったのですね。
ブランチ、おひる時間、おやつ時間。
んー、いい感じです。
さて、お昼ごはんです。
つきとおひさまで食事をするのは初めてですが、迷わず旬のおかず定食にしました。
どのお料理も手をかけて丁寧に作られているのを感じられる味です。
野菜料理は、ひと品作るのになかなかの手間と時間がかかるものです。ひとつひとつのおかずをゆっくりとありがたくいただきました。
雑穀ごはんはかみしめるほどに美味しさが増し、味噌の香りがほのかに漂う味噌汁はおかわりをしたいくらい。
ごちそうさまでした。
外へ出ると梅雨開けのからりと晴れた青空が迎えてくれ、満足の昼下がりでした。
2015/07/28
小さい人のための場所がある洋服屋さん
ショーゾー04ストアーは、黒磯CAFE SHOZO隣のガレージ奥にある洋服屋さんです。
階段を上がった2Fが店舗で、服飾がメインで生活雑貨も置いてあります。
階段へ続くアプローチは、通るたびに心ときめく空間です。テーブルには、季節の花がステキに置かれ、人の手による清潔さを感じさせる場所です。
階段を上がり目にとまるのは、低目の机と椅子。そこは小さい人のための場所です。
机の上には、絵本とおままごと用のナベやカップ、お絵かき帳が置かれていて自由に使えます。
窓辺のテラスにはハンモックが揺れ、ときどき小さなお客さまが静かに過ごしているのを目にします。
04ストアーは、カップルや子供連れの若いパパ・ママも多く訪れるお店です。
小さい人のための場所がある洋服屋さん。なんと気持ちのこもったおもてなしでしょう。この場所で遊んだ記憶は小さい人たちの心に残りやがて大人になってひとりで、あるいは誰かと再び訪れる日がくるかもしれません。
それはなんてステキなことでしょう。
2015/06/23
那須高原HERB’s、春の庭
那須高原HERB’sを初めて訪れたのは、まだ雪の季節でした。
お湯をはった大きな器が薪ストーブの上にのせられ、ハーブがたっぷりと入れてありました。
干し草のほのかな香りが湯気にのって漂い、なんとも心地よい空間でした。
那須高原HERB’sは、ご夫婦お二人が営むハーブ園です。
カフェが併設されているお店からは、広々とした農地が見渡せます。
まだ冬枯れの大地はところどころ雪に覆われこの日は、小雪が降ったりやんだりの空模様。温かい部屋の窓から見るモノトーンの景色は心にせまり、まるで一枚の絵のようでした。
再び訪れたのはよく晴れた春の日の午後。お店に入ると爽やかな風に包まれました。
なんと一面の窓は見事に開け放たれて、木々の若葉がどこまでも広がります。
デッキの向こうには二つのハンモックが静かに揺れ、那須高原の新緑は木漏れ日に輝きます。
2015/05/26
中目黒の桜、川沿いの古書店
桜の季節になると思い出す場所がいくつかあります。
中目黒の桜もそのひとつです。
目黒川沿いには対岸の桜がそれは見事に折り重なるように咲き、散歩をしながらたのしめる場所です。
たくさんの提灯が取り付けられ、暗くなってからのお花見気分をぐっと盛り上げてくれます。
中目黒の桜を初めて見たのは9年ほど前だろうか。
川沿いにある「カウブックス」を訪れた時でした。
「カウブックス」は、文筆家の松浦弥太郎さんが友人と営んでいる古書店です。
雑誌「暮しの手帖」の編集長に就任されて間もない頃のこと、まさかお店におられるとは思いもよらないことでした。
ちょうど電話中で、私は本の背表紙を眺めながら音楽のようにその声を聞いていたのを覚えています。
「暮しの手帖」を定期購読すると特典として松浦編集長による小冊子のエッセイがついてくる時期がありました。それは内緒の手紙のように雑誌にはさみこまれて届き、ページをめくりながらわくわくしたものです。
小冊子「編集長日記」が届くのを楽しみにしていること。
繰り返し読んでいること。
そのことをお伝えすると少しはにかんだ顔でこう言われました。
「僕はあのようなことしか書けなくて」
その言葉は心に深く届き、今でも胸の中にあります。
松浦さんはこの春、編集長を自ら退任されました。
退任されるまでの思いを新書「正直」の中でこう綴っています。
「24時間、365日、暮しの手帖のことを考え続けていた。一冊の雑誌を一通の手紙のように読者のみなさまに届ける思いで作っていました」
寝ても覚めても頭から離れなかった9年間の日々に思いをはせます。
2015/04/20
春を告げる花
春先になると土の中から姿を現す福寿草。
真っ先に春を告げる花です。
決まって同じ場所に咲きはじめ、見つけるととても嬉しい。
やあ、今年も花芽をつけたね。
きれいに咲いたね。
長い冬の間、土の中でエネルギーを蓄えていたんだね。
瑞穂蔵の野に咲く福寿草に初めて気づいたのはいつのことだったろう。震災のずっと前のような気がします。
あの震災を経て、いまだ枯れることなく生命の営みを繰り返していく植物たち。
太陽の光を仰いで花ひらく小さなものに心を寄せて、しばしまどろむ早春の日です。
2015/03/23
オードリー・ヘップバーンに着せたい服
数年前に訪れた横浜のシャツ専門のお店でのお話です。
ショーウインドーに置かれたシャツワンピースに惹かれてドアを開けました。
お店の中は、右と左にそれぞれメンズ・レディスに分かれており、天井が高くて風通しがよく、清潔な印象を受けました。
なんと店の奥に工房があり、シャツ作りを遠目に見ることができ心躍る空間が広がります。
製図台には数枚のパターンが広がり、制作中のシャツがトルソーに掛けられていました。ミシンやハサミ、メジャー、ペンシルなどが静かなライブ感をかきたてます。
ここに置かれている全てのものがこの工房で作られている。それはとても心驚かされることでした。
痩身で初老の店主がお客さまを迎え、静かに見守ります。
紺色のワンピースを手に取り見ていると試着をすすめてくれ、サイズを詳しく聞かれました。
真夏の暑い日でしたが、ほどよい質感のある綿素材のワンピースはとても着心地が良いものでした。
締め付けず、過剰に広がり過ぎず、クオリティの高いパターンの技を思わせるものでした。
「私は長い間、オードリー・ヘップバーンに着せたいものをイメージして服作りをしてきました」
店主はそう言うとニッコリと微笑み、さらにこう話してくれました。
「どんな体型の女性にもステキに着ていただけるよう、サイズのバリエーションを多くしています」
ああそうか、納得の着心地はそんな心づかいの賜なのでした。
それにしてもオードリー・ヘップバーンに着せたい服とは…。
なんて素敵な思いなんだろう。
ワンピースを身につけるたびにその時のことを思い出します。
2015/02/24
街中のネコ
街を歩いていて路地に入るとネコに出会うことがよくあります。
今の時代は、イヌは大型犬でも家の中で飼っていることが多く、外に繋がれているのを目にすることはめったにありません。
だからでしょうか、自由に歩き回るネコたちに出会うと心が躍ります。
思わず近寄り、触りたくなる。遊びたくなる。
野良でも街中のネコは人馴れしているのも多く、そうそう触らせてはくれないけれど近づいてもサッと逃げることはありません。
ほどよい距離に身を置き、思いのままに寝そべったり身繕いをしたりあくびをしたり。
かと思えば、しっぽをピンと立てすたすたと自転車の車輪に身を寄せたりと眺めているだけでも飽きません。
ネコは何匹かでいると安心するようです。旅先で訪れた路地では一匹のネコの回りにいつの間にか数匹のネコたちがどこからか現れて、思わずワーイと声が出るほどに驚いたことがあります。
その中にはまだほんのちびっこのそれはそれは可愛らしい仔ネコがいてさっと連れ去りたいほどでした。
2015/01/26
仲よく、楽しく、元気よく。
無事に2015年を迎えることができました。
新年おめでとうございます。
これから一年、どんな出会いがあるでしょう。
本年もよろしくお願いします。
2015/01/05