音楽家、樽木栄一郎と画家、近藤康平。
二人の表現者がつくりあげる時間はまるでドキュメンタリーの3D映像を見ているような感覚。緊張と解放感が身体中をめぐる独特のものだった。
樽木栄一郎の弾き語りが始まる。
近藤康平が白い大きなキャンバスを前にしばし目を閉じ意識を集中させる。
数秒ほどの短い時間。観客は息をひそめて動きを待つ。心地良い緊張感で包まれていくのがわかる。
画家は顔を上げ、指先に絵の具をつけキャンバスに初めの色を入れる。表情は穏やか、微笑んでいるような横顔だ。
あっ、山だ。磐梯山だ。
そうして筋書きのないライブペインティングは始まった。
どのくらいの時間だったろうか。
終盤を迎えようとする頃に、画家はひとときの休憩を自分に与え、キャンバスを前に膝をかかえるようにして座り込んだ。
表情はやはり穏やか。軽い言葉を交わし合う音楽家と画家。
このままの風景を保ち仕上げに入るのかと思いきや、立ち上がり再びの絵の具で色を変えていった。
その大胆さにざわめく声がする。
やがて完成された絵が現れ、画家は後ろに身を引いた。
音楽の余韻が残る中、その絵はまるで生きもののよう。飛ぶ鳥は羽ばたき、人の影は動きだしそうだ。
緑と青の色使いが印象的な近藤康平の世界だった。
あっち、こっち。